Eカッコイイは難しい/穂村尊


「頑張れ。私から言えることは以上だ」
「おう。任せとけ!」
「だが目立ちすぎるのも避けてくれ」
「わかってる」
「あ、あれ、みょうじなまえじゃね?」

どこ、と俺は体を震わせて何度も周囲を見渡す。居ねえじゃねえか。Aiはデュエルディスクの上で笑い転げている。「こら、尊をからかうのはやめろ、Ai。尊はこれでも真剣だ。今日の試合にかけている。分の悪い賭けをしている最中だ。そう茶々を入れてやるな」いや、お前がまず黙れ。分が悪いとか言うな。

「悪い悪い、つい面白くて。あ、みょうじなまえ」
「もう騙せれないっつーの」
「いや、今度は本当だ」

え、と振り返ると、体育館のバスケットコートの中心、確かにみょうじが立っていた。死ぬほど嫌そうな無表情で、財前葵と何やら話をしている。そのうち、学校では財前葵にしか見せることのない緩んだ笑顔で微笑んだ。もっと近くで見られたらいいなあと、こっちを見ないだろうかと見つめ続けていたのだが、終ぞ一度も目が合うことは無かった。



女子は暇そうにコートの外で話していたり気のない応援をしていたりいろいろだ。しかし、一度くらいはこちらを見るはず。
今日の体育の授業では、他クラス対抗でバスケットボールの試合をする。男女は別々だが、別々である故にこういうことになる。俺が試合をしている時、みょうじが観戦。観戦。そう、観戦である。例え俺の事が苦手なみょうじであったとしても、これだけ離れていれば無害な俺をちらっと見ることくらいあるはず。試合内容が複雑になればなるほど見たくなるはず。その時に俺がなにか活躍したらカッコイイはず。不霊夢には「そんなに都合よく行くと本当に……、いや、何も言うまい」などと言われたが諦めることは出来ない。
みょうじに、一瞬でも、カッコイイ、と。
ちら、とみょうじの様子を見ると、依然財前葵と一緒に居た。こちらを見ないだろうかと再び見つめて見るが、やはり目が合わない。
そのうち、財前葵の出番が来たようでなまえは一人になる。一人になれば暇をして、試合を眺めるくらいのことをするはずで……。

「は……」
「どうした穂村?」
「あ、いや、なんでもないよ」

クラスの男子に声をかけられて答えるが、なんでもなくはない。俺の今日この日この時にかける全ての情熱が急速に霧散していくのがわかる。
見てもらう、なんてやはり、不霊夢の言葉通り、都合の良いことだったのだろうか。

「穂村!」

ぱ、と投げられたボールをそのままゴールに入れる。いの一番にみょうじを確認する。みょうじなまえは膝を抱えて下を向いて眠っていた。


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20190310:「残念だったな」「でもほら、俺達は、尊のスリーポイントシュート見てたぞ」「ああ、ありがとな……、ちなみに、俺が気付かなかっただけでちょっとでもこっちを見てた、なんてことは」「なかったな」「なかったぜ」「なかった」「もしかしてお前ら。……、他人事だと思って楽しんでないか……?」
 
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