フラワーズ/藤木遊作


「なまえちゃんしんどそーね、大丈夫?」
「あ?」
「えっ、こっわ……」

デュエルディスクから顔を出していたAiが引き気味に言った。なまえは吐きずらそうに溜息をついて「ごめん」と言った。そのやりとりで、Aiはこの時期のなまえの扱い辛さを思い知り、「遊作ちゃん! あとは任せた!」などと言いながらデュエルディスクの中に逃げた。
俺はなまえの隣を歩きながら、なまえの様子を観察する。メガネにマスク、ティッシュとハンカチを握りしめて定期的にくしゃみをしたり、息をする度にずるずると鼻をすすっている。更に目のかゆみに耐えきれなくなると目頭を押さえることもある。

「LINKVRAINSに学校を作れ……」

つまり、花粉症が苦しいから、外に出たくない、と、そういうことらしい。

「目が痒い。身体機能のリソースが明らかに余計なものに割かれている感覚がある。無駄すぎる」

なまえはぶつぶつと文句を言いながら「絶対悪……」などと吐き捨て機嫌が悪い。かわってやるか、もしくは何か軽減してやれれば良いのに、とは思うがそういうことを軽々しく口にされるのも癇に障るようで、以前「無茶を、言うな」と肩を掴んで睨みあげられた。弱ってはいても美しい目だったのは忘れていない。

「目が、無理」

なまえは目を掻きむしりたい衝動と戦っている。
彼女は仏頂面でメガネにマスク。普段の穏やかさは見る影もない。

「やってられない……人間やめたい……」

なまえは、自分の手のひらを見ながら葛藤している。余程痒いのだろう。俺はそっとなまえの前に手を差し出す。

「俺が押さえておこうか」
「ええ……?」

なまえは差し出された手の意味を思考力の低下した頭で考える。

「……じゃあ、よろしく」

考えた結果、なまえの手が俺の手の上に乗った。ぐ、と俺の手となまえの手とがつながる。俺はなまえのこの姿が嫌いではない。花粉を防ぐためにマスクをしてメガネをして顔を隠すなまえは相変わらず眉間に皺を寄せて目を細めているけれど、なまえの持つ綺麗なものたちが誰の目にもさらされないのは素晴らしい。

「花粉飛びすぎて休校とかになれ……」

なまえの機嫌が治る頃、今年こそは、なまえは特別なのだと伝える。


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20190301:付き合ってないんかい
 
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