虚心坦懐(3)/デニス


私は、第一印象から言ったなら、彼のことが少し苦手であった。
それに、まあ、その、味方ではないだろうな、と言うのも感じていたのだ。
そんな彼と初めて話をした時のことだ。

「君、なまえだろ? 赤馬零児の右腕だって有名だもんね! 知ってるよ! ねえところで君たちって付き合ってるのかい?!」
「………、付き合ってない」
「ワオ! じゃあ僕にも君と仲良くなるチャンスがあるってことだ! ってことで、よろしくね! 僕はデニス! デニス・マックフィールド!」
「………」
「ん? どうしたの? そんなにじっとこっちを見たりして、あ! もしかして、僕のこと、好きになっちゃったとか!!? 参ったなあ!!」
「いや、君って」
「ええ? いやだなあ、君だなんて………、っ」

なんだか複雑そうだね。
口から出かけた言葉を飲み込んだのは、零児の言葉を思い出したからだった。
「なまえがそう簡単に負けたりはしない事はわかっているが、わざわざ藪をつついて蛇を出すこともないだろう」彼はそう言った。
言っただけで、誰に対してどうとか、そういう口ぶりではなかったのだけれど、このデニスという少年を前にしてわかる。
ああ、零児は彼のことを言っていた。
あれは、暗に「刺激するな」と言われたのだ。
私はぐっと、口を噤んで。

「ううん。そうだね、よろしく」
「え、あ、うん、よろしく、って、今なにか、言いかけなかった?」
「……今? ああ、もしかしたら、零児より好みだなあって口が滑りそうになってたかも」
「へ?」

嘘はついてない。
零児とは付き合いは長いが奴が得意であるというわけではない。し、この程度なら彼の言った冗談とどっこいどっこいだと思っただけだ。
彼も私をからかおうとしたのだから、まあこのくらいは、彼も冗談を上乗せして返してくるのだろう。
………。
嫌に静かだ。私はそっとデニスを見上げる。
…………………………あれ?

「いや、あの、は、はは、困ったなあ……」
「……」

困ったのはこちらの方だ。
そして思い出す。零児はこうも言っていた。「お前の冗談は伝わりにくいから程々にしておくように」と。
これは常常言われているが、こんな事は私もはじめてだった。確かにあまり言わないタイプの冗談だった気がしなく無い。いや、でも、零児にはよくいう気がする。あ、だからか? ん? だからってなんだ?

「あの、今のは、軽いじょ」
「あ! わかってる! わかってるさそんなこと! はは! じょ、ジョークだろ? なまえってばイカしてるなあ!! ほんとに!! 少しびっくりしちゃったけどね!! うん! ジョークジョーク……!!!」

顔を真っ赤にして、視線を上下左右にさ迷わせて、そんな人に、とてもじゃあないがこれ以上言葉を紡ぐ事はできなかった。
ごめん。
いや、でも、同じようなことを、君も……。
けれど、まあ、こんなことがあったから、彼を敵だと思えなくなってしまった。
苦手意識もどこかへ行った。
零児には「なにがあった?」なんて言われるだろう。そう思うと今から億劫だ。

「……ふ」

こんなのもう笑うしかない。
君は何をやっているんだ。
君が私に近付いたのだって、君の仕事をやりやすくするためだろうに。
なんてことだろう。
ほんとに。

「ははは!」
「そ、い、今のそんなに面白かったかい……?」
「面白かったね、今のは」
「ほ、ほんとに? もしかして馬鹿にしてるんじゃない?」
「そう見える?」
「……いや、なんだか君には、勝てる気がしないよ。なまえ」

こんなの。
幸せを願わずにはいられない。
もしかしたら、零児は彼のこの性格さえ見抜いていたのかもしれないな。
とはいえそんな事は、どちらでもいい。
私はいつだって、そこに起きたことをただ受け入れるだけだ。
ただやはり、願わずにはいられない。祈らずにはいられなかった。

「私は、みょうじなまえ。よろしく、デニス」
「え、ええ? 知ってるって言ったじゃないか……、でも、僕は、あ」

赤くなってる場合じゃないだろうに。
ああ、アカデミアだエクシーズだなどと言っても、きっと彼は彼なのだろう。
アカデミア以外にも、信じたいものがてきて当然。
信じたいものを自由に信じられるように、その為に、私は動いている。

「……よろしく」

口元を抑えて、顔を赤くして、それでもどうにか普通にと、彼は笑っていた。
君はきっと、一筋縄じゃあいかなくて、今頃自分は何をしてるんだと慌ててる頃かもしれないけれど。
敵に徹する事はできない。
彼はきっと、そういう決闘者で、彼は、そういうエンターテイナーなのだろう。

「あなたが幸せでありますように」

そっと呟くと、彼は困った様に「ありがと」と言った。
なにがあっても味方でいる、とは言えない。守ってあげることも望まないかもしれない、けど、うっかり気に入ってしまったんだからしかたない。
君が望むなら、私に出来ることならば。
第一印象は苦手だった。
彼の決闘を見た時に、きらきらとしていて、遊矢や柚子と同じように、表舞台の人間だなあなんて思った。
私は彼らが全力でやれるようサポートする。
だから、グイグイ来られると少しやりずらい。
その考えは一瞬で過去のものになって。
零児よりも好みかもしれないというのは、本当のことになってしまった。



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20160729:でもそれを伝えたら今は彼を苦しめることになることを知っている。
時間軸は遡っている感じですね。
 
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