篝火の夢09/不霊夢


私は、私のデュエルディスクから、せっせと本を取り出しては積み上げる不霊夢を見ながら言った。「それ、穂村くんのところからわざわざ持ってきたの?」と。不霊夢はきょと、とこちらを見上げてから、わざわざすっと背を伸ばして、ひらりと右手を広げてみせた。「そうだが?」

「尊の傍はこういうことをするのに向いていないからな」
「今日は読書の日なの」
「そういうことだ。なまえ、あれをだしてくれ」
「あれ」

あれ、あれ、あれってなんだ。私はしばらく考えるが、彼の言うあれがわからない。なんだろう。あれって。

「あれってなに?」
「あれはあれだ。いつだか出してくれていただろう?」
「あんまりあれとかそれとか言うとAIやめてると思われるよ」
「私はAIをやめることはできないし、これはわざとだ。君との親愛度を試している」
「ええー?」

広げていた手を胸のあたりで組んで私を見上げている。試されているらしい。つまり、不霊夢は私に「あれ」の正体を教えてくれる気はないのである。「さあ、考えてくれ」と彼は楽し気だ。こんな遊び、一体どこで覚えてきたのやら。

「ヒント……」
「もうか? しかたがないな。私は炎のイグニス。不霊夢だ。不屈のたましい夢にあらずと書く」
「うん」
「……」
「……あ、今のヒントね」

多分、後半のやつは関係ないから、重要なのは炎のイグニスだ、と言ったあたりだと思うのだが。炎のイグニス、炎の?

「あー……、ちょっとまって……」
「わかったか?」

あれかなあ。どこにしまったかなあ。私は引き出しを一段ずつ開けていく。ここでもないここは違う。確かこの辺りに……。見つけた。私はまだ蝋の残った小さなキャンドルをつまみ上げる。炎の揺らめく様子がわかる台に入れて一緒にしまってあったライターで火をつけた。

「これでしょ」
「正解だ。流石はなまえだな」

に、と不霊夢は至極満足そうに、蝋燭のあかりで読書を始めた。


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20190212:いい匂いもするんじゃないかな。
 
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