篝火の夢08/アース


私はチョコレートのレシピ本やバレンタイン限定で発売されるチョコレートが特集された本を眺めていた。二月はなんだか楽しくて良い。ふと、横を見ると、デュエルディスクから、ぬっ、とアースが顔だけを覗かせていた。ある程度慣れているが、あまりに気配がないものだから驚いて椅子も机もがたりと震わせてしまった。

「ええと、あの、いらっしゃい。どうした?」
「……」

アースは黙っている。どうもしないはずはない。彼が目的もなくここに来ることは珍しい。ならば、私の、どうした? という質問が答えにくいのかもしれない。ならばええっと、アースがわざわざここに来る理由と言えば。

「アクア関連でなにかあった?」

アースは私と目を合わせると一度デュエルディスクに沈んだ後、胡座をかいた状態で出てきた。否定されない。アクア関連で確定だ。私は雑誌を閉じてアースに向き直る。

「……アクアは」
「はい」

それからまたしばらく黙っていた。ウィンディやAiあたりだったらとっくに飽きはじめて余所事に手を伸ばすだろう。

「……ううむ」
「うん」

言いづらいのは伝わってきた。しかし、アクア関連でである、ということと、「アクアは」という出だしだけでは情報が少なすぎる。予測するのも難しい。アースは数分間言いづらそうに唸ったり体を丸めたりしていたが、その内、その言いづらさが嘘みたいにぱっと話し始めた。

「君は誰かにチョコレートを渡すのか?」

明らかに本題ではない。しかし、なるほど、ははあ。チョコレート。チョコレートか。その、キーワードだけ出れば十分だ。

「アクアからチョコレートが欲しいって話?」
「なっ……!!? な、何故それを……!!!?!」
「何故も何も……、わかるよそりゃあ……」

アクア、チョコレートと出たらバレンタインの話以外にない。私が言うと、アースは徐々に吹っ切れてきたらしく「ごほん、そうか。わかるのなら話は早い」などと立ち上がった。

「どうするべきだろうか」
「……いや、私はなんて言うかその」
「ああ」
「チョコが欲しい、って思うなら、だよ?」

アースは目を輝かせて聞いている。残念ながらそんなにすごい話ではない。

「チョコ、送った方が早くない?」
「なんだと……」
「だってそしたら、一ヶ月後にはお返しの日あるんだから……。その方が貰える確率上がらない……?」
「それは、確かにその通りだ……」
「でしょ?」

私はまた雑誌を開いた。きっとこれで悩み相談は終わりだ。きっと彼はさぞ気合いの入ったチョコレートをアクアに渡すのだろう。何を貰ったかは後でアクアにでも聞いてみよう。

「その手を使わせてもらうことにする」
「ところで、アース」
「なんだ、私は急ぐのだが」
「私もひとつ相談が」
「手短に頼むぞ」
「私からみんなにチョコをあげるにはどうしたらいいかな」

アースはこれでもか、と言うくらいの沈黙の後にもう一度デュエルディスクの上に座った。本当は今すぐにでもアクアへのチョコレート作成に行きたい気持ちを隠しもしないで、いくつかの方法を教えてくれた。


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20190203:チョコあげたいんですがどうしたらいいですか。バレンタインポスト?
 
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