とある平和な世界にてE/ウィンディ


なまえを最近見かけないから、僕は散歩がてらなまえの姿を探してやっていた。もしかしたらサイバース世界の隅の方で行き倒れているかもしれない。実際よくあることなので、誰も否定はできない推測であった。
そして案の定、なまえは水のイグニスに疲れて寝ているところを発見された、というわけである。つくづく予想通りでいっそ清々しい。

「で、何をやってたんだ?」
「え?」
「また風を起こす練習か?」
「え、あー、まあ、ちょっと探しもの?」
「ふうん? 捜し物ねえ。お前が落として困るようなものなんてあったか?」

僕の言葉に、なまえは「あはは」と声を上げて笑った。

「おっしゃる通り大したものじゃないからその、大丈夫。倒れてたのは、つい夢中で」
「そうか。まあ、それはなんでもいい。そんなことより、だ」

僕はずっと後ろに隠していた左手を、なまえの前に出した。手には、クローバーを握っていた。ありきたりな三葉ではなくて、若干レアな四葉でもなく、宝くじを当てるよりも確率の低い、葉が、七つあるものだ。
なまえはきょと、と目を丸くして、僕の手元を見つめている。

「おもしろいもん見つけてさ。お前にやるよ」
「……私に?」
「ああ。僕が持っていたって仕方ないしな」
「私に……」
「いらないんなら闇のイグニスにでも押し付けてやればいい」
「え、う、ううん! いる! ありがとう! こんなの、よく見つけたね」
「だろ?」
「すごい、私は四つのやつも見つけられなかったのに」
「四つのやつ? ああ、そんなのも見たことあるな」
「えっ」
「僕の管理してるところではたまに見るけど、なんだ? 四つだと何かあるのか?」
「……そっか、そっちに集中してたのかあ。ううん。ありがとう。大切にします」
「あとそうだ、」
「うん?」
「さっきそこで光のイグニスにあってさあ、これの話したらため息ついて「君もか」とか言われたんだが、どういうことか分かるか?」
「あー……」

なまえは泥だらけの手を綺麗にしてから、七つ葉を受け取った。そして、決まりが悪そうに目をそらす。決まりが悪い、なんて今更なのに、こいつが開き直ることは無いのだろうか。「私も、四葉をあげようとしてたから」見つけられなかったけど、となまえが言った。

「……ははあ。そういうことか」
「私が先にもらっちゃったから、今は、どうお礼したらいいか迷ってるって感じ」
「礼ねえ。礼か……」

僕は少し考える。なまえから受け取りたいものは現状ないし、手伝ってもらいたいことも思いつかない。いや、本当はいくつもあるような気がしたが、なまえのわかる言葉にするのは難しそうだった。

「それは思いついたら言うとして、そんなに探したなら見たいんじゃないか?」

僕が言うと、なまえは、ぱっと顔を輝かせた。
今は、そこまで探して見つけられなかったと言う四葉を見せてやりたい気がした。こいつはきっと、阿呆みたいに喜ぶだろう。

「見たい!」
「しょうがないやつだな」

僕らは連れ立って、その後いくつか四葉を発見した。
後で調べたら、四つ以上のクローバーは逆に不吉なんだとか。しかしまあ、おそらくこいつならば、どんなものでも幸福に転じられるだろう。


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20190202:誰にも決められたくはない。ただ一つのこと。
 
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