とある平和な世界にてC/ライトニング
なまえが四葉を探し始めてから随分経つが、今尚結果は届いてこない。つまり、まだ見つかっていないのだろう。私は今日も手に土をつけながらシロツメクサをかき分けるなまえに声をかける。
彼女をこうも突き動かすものを知っている。
「君は本当に、風のイグニスが好きだな」
「あー、うん、ね」
「彼の何が、そんなに気に入っているんだ?」
「何がって言うか、難しいねそれ」
「難しい? 私や他のイグニスたちより特別扱いしているのは明白なのにか?」
「いやあ、私は、みんなのことも十分、特別だと思ってるけど」
「それはおかしい」
「へえ?」
「特別とは、他と比較して使う言葉だ」
「あー……」
なまえは草を掻き分ける手を止めてこちらを振り向いた。「そーだね」と困ったような笑顔で私を見上げている。
「そうだろう? 君は我々しか知らないはずだ」
「んーーーー、まあ、そう、かな?」
「どういうことだ」
「……私と比べてるんじゃないかな?」
「君と?」
「私と比べたらみんなは特別だよ。私のことなんかどうでも良くなるくらい」
「そういうことか。なるほど。それならたしかに。比較対象があることになるな」
「そういうことにしておいて」
ふむ、と私は腕を組んでなまえを見下ろした。彼女の言うことはきっと真実なのだろう。本当に、自分のことより他イグニスのことを優先するつもりでいるのだろう。水のイグニスでなくとも、彼女の言は真実であるとわかる。わかるが。私にはどうしても理解できない。
「君にとって私たちが特別なのはわかった。だが、それよりももっと特別なのが風のイグニスなのは何故だ」
「えーー、そんなもの曖昧にしておきたくない?」
「意味がわからないことを言うな」
「じゃあ、教えたくないってことで」
なまえが私には許容できない嘘偽りない言葉ばかりを選ぶので、ついムキになって。
「そちらがその気ならこちらにも考えがある」
「ん?」
「君が四葉を探していることを、風のイグニスにバラそう」
「ええー……?」
そんな人間の子供みたいなことする? となまえは困っていたが、そのうちまあいいか、と作業を、再開した。「そんなこと言われても話しませんー」しばらく感じていた形容しがたい気持ちの悪さは、なまえの小さな背中を見ていると、そのうち霧散した。
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20190201:それをくれ、とは言えないだろうな、などと思う。