虚心坦懐(01)/デニス


少女は、その男を慰める気があったわけでもないし、その男のすべてを理解していたわけでもない。
たったひとりで街を眺めるその男を、少女は、発見してしまった。
ただそれだけのことだった。

「……」

普段とは違う淋しげな背中を眺めて、それから自分用に持ってきたブランケットに視線を落とす。
しかたがない。
そうっと息を吐いて、後ろからそのブランケットを半ば叩きつけるように投げた。
ばさり、と、ブランケットが彼を覆って、彼はと言えば情けなく「うわぁ! なに!?」なんて驚いている。
少女はまた、なにか声をかけるべきか迷ったが、かけるべき言葉が見つからず、そのままくるりと踵を返した。
彼、デニスのことは、わかるけれどよくわからないというのが彼女の思うところ。
おそらく、敵ではある。が、完全にそうであるかと問われればその答えを少女が出す事は難しく、結局どの立場としての言葉をかければいいのかわからないのだ。
敵として。味方として。友人として。あるいは、ランサーズの仲間として?
彼を背に歩き出した少女であったが、その歩は、程なく止まることになる。

「ま、待って、なまえ!」

まさか呼び止められるとは思っていなかった。
くるり、と振り返ると、彼もまるでうっかり呼び止めてしまったとでも言うように言葉に詰まった後、いつもの自信たっぷりの笑顔ではなく、困った様に、そっと笑った。

「その……、もしよかったら、隣に来て欲しいな」
「……」

少女、なまえは、言われたとおりにすとんと隣に座る。
そして、隣の男を見るけれど、彼はいつもの陽気さを発揮させる気はあまりないらしく、未だに少し困っているようだった。
ならば、呼び止めなければ良かったのに。
なまえは思うが、デニスはぐるぐると視線をさ迷わせたあとに、自らの手に持っているブランケットにはたと気付く。

「ありがとう。丁度少し寒いなと思っていたところだったんだ」
「……そうだね。私は今来たところだから、それは貴方が使ってて」
「君も一緒に……、いやごめんね」

少女は、特にその表情に感情をのせてどうのこうのという事はしなかったが、その無表情がデニスには堪えたらしかった。
なまえはそれを狙って無表情であったようにも見えた。
その証拠に、彼に隠れて一つ息を吐く。
デニスは肩を落とした後に、いつもの調子で話し始める。

「君も、星を見に来たのかい?」
「まあ、そんなところ。異次元の星なんてゆっくり眺める機会、そうないだろうから」
「それもそうだね。君ってば雰囲気も大人っぽいけど、興味を持つこともカッコイイな」
「……」
「なに? 僕の顔になにかついてる? あ、もしかして、僕のこと」
「……」
「ご、ごめん。僕が悪かったからそんな顔するのはやめてくれよ……。でも、僕が君をカッコイイと思ってるのは本当だよ」
「カッコイイ、ね」
「あ、女の子にカッコイイは微妙だったかな」
「ううん。褒められるのは素直に嬉しいよ。ありがとう」

なまえは、ふわり、と柔らかく笑う。

「……あの、せっかく2人きりだから、変なことを、聞いてもいいかい?」
「……答えられる範囲でなら」
「えーっと、これはもし、そう! もしもの話なんだけどね!! もし万が一、世紀のエンターテイナーの僕が、ものすごーく怖い侵略者だってわかったら、君はどうする?」
「……」

少女が、考えるのは。
もしかしたら、態度に出ていただろうか、という事。
しかし、デニスにも確証はないようだし、「もしかしたら、わかっているのかも」程度の認識かもしれない。

「……」

考える。
侵略者だろう、と言う気は無い。

「……、なまえ?」

デニスは迷っている。
そんなことくらいわかる。
だから、少女の答えはこうだ。

「あ、あの、えーっと、答えになってないし、そもそも、なにも言ってもらってないけど……、しかも、流石にこれは照れるし……、なまえ? どうしちゃったんだい?」
「どうもしないよ」
「……なまえ」

デニスの頭を撫でた後に、そっと手を離す。
手が離れると、恥かしいだのなんだのと言っていたが、名残惜しそうにそっと名前を呼ぶ。
やはり、と、なまえは思う。
自分がかけられるような言葉なんてない。
例え、彼が怖い侵略者だったとしても、出来ることといえば、この自称世紀のエンターテイナーが幸せであるよう祈ることくらいだ。

「ね、ねえ、なまえ?」

そっと立ち上がり、みんなのところに戻ることにする。
ブランケットは預けたまま。

「あなたが何者であっても、私に出来る事はひとつしかないよ」
「ひとつ?」
「そう。ひとつ」

それを聞くには、もうなまえは随分と遠くに行ってしまっていて、声をかけられるような状況ではなかった。

「ずるいな、君は」

ぽつりと、つぶやく言葉は誰にも届かず、ただ、彼女が残したぬくもりがいくつか反響していた。

「なまえ、僕は君のことが」

すきだ。



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20160727:デニスがアツい。もうやだ。
 
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