15万打リクエスト(14)


方々から声をかけられるのはいつものことだ。俺は大して気にならないのだけれどなまえにとってはそうではない。声をかけられるとわざわざそちらを向いて、ぺこりと頭を下げる。そうやって反応があるのが面白いからだろう。町の連中も俺と、それからなまえにしっかりと声をかける。
それは、まあ、いいのだが。

「なまえちゃん! これ持ってきな!」
「なまえ姉ちゃん、次いつ遊んでくれる!?」

ふと気が付くと隣に居ない、という事が起こるようになってしまった。俺はその度に「オイ」となまえを呼び、わざわざ引き留めた奴に「ほどほどにしてくれ」の意を込めた視線を送るのだが、また数十メートルと歩くうちに新しい奴に掴まっている。
なまえが浅草に馴染むのは良いことだ。
よそ者であるということを(態度には出さずとも)気にしているなまえにとってはありがたいことだし、浅草に縛り付けておいてくれるというのも良いことだ。だから、やめろ、とは言えないのが悩ましい。

「なまえ」

考えた末、俺はなまえを呼びつけて、「なんですか」とこちらを見上げる顔をじっと見下ろした。俺が何も言わないので不安になって「えっと、私、なにか」しましたか、と言う前に、焦って持ち上げられた手を掴んだ。「え」

「行くぞ」

こうしていれば、例え話しかけられて足が止まっても、間隔が開きすぎるということはない。いつでも引っ張って寄せられるし、何かあれば守りやすい。
「やるねえ紅ちゃん!」と声がする。なまえも恥ずかしそうにしているが、その内慣れてしまうだろう。それでいい、と俺は思う。一つずつ一つずつ慣れてしまって、ないと寂しいと思うくらいになってもらえれば、こっちのものだ。

「あの、紅丸さん」
「なんだ」
「……」

なまえはじっと押し黙って言葉を選ぶ。嫌だっただろうか。自信満々にやったことだが、なまえに不快感を与えたかったわけでは。

「これ、すごく安心しますね。ありがとうございます」

折角ここまで格好付けたのに、なまえがふわりと笑うものだから結局俺まで赤くなってしまった。これがなければ生きていけなくなるのは、俺の方かもしれない。

「離すなよ」

「はい」となまえは頷いて、俺は「まあそれでもいいか」と握る力を強くした。


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20200704:
詩紅さまから『第七事務雑務担当夢主シリーズで、日常のほのぼの甘めのお話orデートするお話』でした!!

 

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