15万打リクエスト(13)


嫌な予感がした。痛い思いをしても綺麗に治ってしまうからだろうか。前向きなのは良いことだが、少しは凝りるという気持ちがあっても良いように思う。なまえはじっと差し出された小瓶を見る。二つある。デザインは対になっているようだった。

「抹本先輩? これはなんですか?」
「うん。これを飲むとね、中身が入れ替わるんだ。前は煙で無差別だったけど、今回は同じ液体を同時に口に入れることで狙った対象と入れ替わることができるようになったんだ!」
「なったんだ、じゃなくてですね。それをどうして私に渡すんです?」
「もちろん。実験だよ?」
「もう一回聞きますね。それを、どうして、私に、渡すんですか?」
「なまえとならみんな入れ替わりたがるから、きっと話が早いよ」

なまえは盛大に溜息を吐いた。「どうしたの? 体調悪いなら明日にしてもいいけど」と抹本は言うが、そもそも了承していない。なまえが実験に協力するというのは決定事項であるようだった。なまえも、先輩からの頼みを断る気はないけれど、不満ではあった。とは言え、あんな目にあってまだ入れ替わりの薬を作ろうと思う、抹本の不屈の精神は立派なものだと無理矢理納得した。納得するとやや、協力してもいいかという気持ちになってくる。

「何をしているんだ?」
「あ、斬島。丁度いいところに……、手伝ってくれる?」
「手伝う? 何をだ」
「なまえと入れ替わる薬をね」
「あれか」

ああ、と手を打つ斬島は今にも「構わない」と頷きそうだった。なまえはこのまま相手役が表れないことを期待したが、抹本の後ろから平腹が全速力でかけて来るのが見えた。

「面白いことしてる!?」

そして反対側の廊下の角から「うるさいぞ!」と谷裂が現れ「どうしたの?」と佐疫がやってきた。早すぎて見えなかったが平腹の手には田噛が引き摺られていて「こんな狭いところに集まるなよ」と欠伸をしている。

「ああ、あのね、薬を」
「実験か」
「そうなんだ。で、なまえともう一人、相手を探してて」
「相手?」

「う、うん。あのね」と抹本が説明し終わると、一体いつから、どこから現れたのか、肋角に災藤、木舌まで近くで聞いており、うんうんと頷いていた。「その役、おれがやろうか」にこにこと木舌が言うが「いいや、私が」「俺も今は暇だからな」と災藤、肋角までが言う。
その隙になまえはそうっとその場から離れようとした。
この流れはまずい。わいわいと薬を取り合う獄卒を眺めながらじわりじわりと距離を取る。

「なまえ」

完全に背を向けたところで、全員から名前を呼ばれた。

「誰を選ぶ?」

全速力で獄都を逃げ回ったが、三十分後に掴まった。


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20200704:
彼岸花さんからリクエスト『獄都シリーズ、抹本の薬で入れ替わるのその後』でした!

 

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