15万打リクエスト(11)


なまえが日常をどう過ごしているのか、知り尽くしているわけではない。忙しそうにしていて、いくつかバイトを掛け持ちしている。友達は少ないし、遊びに行ける日、なんていうのも滅多にない。学校がある日も土曜日曜祝日も関係なく走り回るこの女は、大樹ほどではないがタフだ。しかし時々、本当に時々、疲れている顔をする。そういう時俺は無言でなまえの手を引っ掴んで保健室に入り、ベッドに放り投げる(ことはできないので有無を言わさず押し込む)。

「顔色が悪ィ。寝ろ」

なまえも俺にここまでやらせてしまった日は、大人しく言うことを聞くことにしているようで(もしかしたら俺が言ってくるタイミングを何かの目安にしているのかもしれない)深く息を吐いて目を閉じた。

「今日、そんなに?」
「一際悪ィっつーか悪すぎるわ。いいから寝てろ」
「授業」
「わからなきゃ俺が教えてやる」
「ええ? いいよ、千空、いつも忙しそうだし」
「さっさと 寝 ろ !」

忙しい奴に忙しそうだなどと心配されたくはない。そもそも、忙しいの内容が違う。俺は存分にやりたいことをやっているが、なまえはそうではないだろう。やらなければならないからやっているだけだ。同じ熱量をなまえがなまえの為だけに使えたら、もっととんでもない奴になっている。

「ありがとう。千空。ごめんね」
「謝んなバカ」
「ありがと」
「おう」

家の事情で忙しくしていることは知っている。俺にも、またなまえにも現状どうしようもないことだと理解もしている。過程がなければ結果はない。行動しなければ勝手に何かが起こる確率は限りなく低いのだ。それでも。なまえのやわらかい髪をそうっと撫でる。もう寝入ってしまったようだ。すうすうと寝息が聞こえている。よくよく見ればうっすらと目の下に隈ができている。「……」かけるべき言葉は見当たらないし、今言ったって聞こえない。どうにもならなくて、いつも通りに振舞っている。いつもそうだ。一秒でも早く、こいつがゆっくり時間を気にせず毎日過ごせる日が来たらと、ついうっかり、そう祈る。これも、いつも通りだった。


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20200528:リクエストありがとうございました!ヤミさんから『石化前の世界で千空夢』
でした〜!

 

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