10000hitありがとうございます!/金属バット


「好きだ」

真っすぐなその言葉は。
この、私に向けられた。
慌てて回りを見るが、誰もいない。
少し外が騒がしい、たった二人の廊下。

「…………」

私は普通だ。
言葉に詰まるくらいには普通。
この状況を手放しで喜べないくらいには考えなしじゃなくて。
ラッキーと乗っかれないくらいには軽薄でもない。
好きだ。
金属バットと言うヒーロー名でヒーローをしている彼の言葉だ。
夢か幻か。
いいやこれはきっと現実で、シチュエーションもふまえれば、それがどういう意味の好きか聞き返すことができるほどに、鈍感でもなかった。
鈍感のふりができないくらいには、嘘がつけなくて不器用だった。

「な、なんか言えよ!」
「あ、え、っと、その」

咄嗟に言葉が出ないくらいには、話をするのが上手ではなくて。
つまり私は普通の人間だった。
特技はと言われても、特に思いつきはしないし。
容姿がすごくいいかと言われても、きっとそうではない。
声が特別素敵なわけでも。
体育がとってもできるなんてことも。
部活も、大した事はしていない。

「な、ん、ど、うして?」
「どうしてだぁ?」
「あ、ごめん。なんていうか、不思議で」
「なんで不思議がることがあんだよ」
「あまり話をした記憶もないし」
「挨拶すんだろ」
「挨拶、くらい」
「俺は誰にでもはしねー」
「そ、う?」
「俺からはしてねーだろ」

言われてみれば、そうかもしれなかった。
なんだかわかりにくいよ。
そう言えたらいいが、私はやっぱり、
好きとか嫌いとか、付き合うとか付き合わないとかそういう話ではなくて、ただただ不思議だった。
S級で人気もあって強い。
多少ヤンキーみたいな格好しているけれど、彼はヒーローだ。
そんな人が、私みたいなのに、告白?
まだ、信じられない。
それに、不思議だ。

「ったく、そんなに不思議そうにすんじゃねーよ、傷つくだろうが! わかったわかった! 話してやるよ。話してやるから、そこの教室入ろうぜ」
「あ、うん」

私ががらり、とどことも知れない教室の扉をあけて、中に入ってうろうろとしていると、金属バットくんは淀みない足取りで適当な席に座り、正面の席に座るように促した。
場所を作ってもらったので、少し落ち着いて、私は促された席に座る。
こんな正面で話をするのなんか、初めてだ。
少し、緊張する。
それから、真剣な眼差しにどきりとする。単純だ。

「迷子を助けてるとこを見かけた」

金属バットくんは、なんてことないことのように言う。
そんなに、生きていて迷子に遭遇することなんかない。
私も覚えているけど、見られていたとは。

「電車で席譲ってんのも見た」

いつもするわけじゃない。
だから、それも記憶に新しいけど、居たのか。

「土手で、なんか泥だらけになりながら探しもの手伝ってんのも見た」

結構前の話だ。
確かに、そんなこともあった。

「ダチが忘れた日直の仕事、間違ったフリしてやってただろ」
「そ、んなこともあったかな」
「一人でいる奴に話しかけにいくよな」
「私も一人だし」
「なあ」
「ん?」
「好きだっつってんだろ」

少し、頬が赤い。
私はどうだろう。

「なまえのこーいう、上っ面の部分だけじゃなくて。とにかく、なんだ。要するに、俺ともっと仲良くなってみる気はねえかなーって話だよ」
「……、私も、仲良くなれたら、嬉しいよ」
「…………」
「……………」
「……………………マジかよ?」
「うん。仲いいひとが増えるのは、嬉しい」
「言ったな?」
「あ、ごめん、でも、こういうのはじめてで、うん、もし、よかったら、とりあえず付き合う付き合わないは置いておいて、仲良くしてもらいたい、なあ」
「……」

最後の方、目を見れなくて俯いた。
無言。
怒っているのだろうか。
私がおそるおそる金属バットくんを見上げると、金属バットくんもうつむいて顔を押さえていた。

「あ、あの、金属バットくん……?」

怒った?
そう聞く私に、彼はとても綺麗に、にっ、と笑った後。

「そしたら早速、帰ろーぜ」

並んで帰る通学路は、いつもとほんの少し違った。
頼りがいがあるとか、安心した、とかそういうこと全て伝えて、今は彷徨うその左手をとるまで、それほど時間はかからなかった。


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20160426:以下コメント返信
匿名さま→
リクエストありがとうございました!
金属バットくんでした。金属バットくんいいですよね。
もし無免ライダーと高校生主の長編を書くようなことがあれば、きっと恋敵とか片思いとかそういうおいしい役回りで登場させたんじゃないかなあと思っています。
でも金属バットくんの口から「妹」という言葉が出せなくて少し残念です。
妹が、と言い続ける金属バットくんもいつか書きたいです。
この度は、拍手コメントと、リクエスト、本当にありがとうございました。
もしよろしければまたどうぞ。
それでは、失礼いたします。

 

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