15万打リクエスト(4)


「結婚してくれ」

初めてそう言われたのは何時だったか。彼がかなり小さい頃だったのは覚えている。その時なんて返したか、実際のところ全く覚えていないが、紅ちゃんから相談を受けた紺炉くん曰く「紅ちゃんが大人になったらね」と言ったらしい。大人しく引き下がった彼は紺炉くんに「大人っていつからだ」と聞いたから覚えていたと言う。
そしてその、大人っていつから? という質問に、紺炉くんは「結婚できるのは十八からだな」と答えた。だから、ぴったり十八歳になった日に、彼はまた私に同じことを言った。大人になったぞ。とも。
しかし。

「そろそろ、諦めない?」
「あ? 諦めるのはお前だろ」
「いやあ……」
「俺のどこが駄目だ」

言ってみろ、と言わないばかりにふん、と仁王立ちする紅ちゃんにはもう正直文句を付けようがないのだが、一つだけどうしようもない事がある。

「年の差」
「……」

このやり取りも何度したかわからない。最終的にはそんなもの気にならないくらい惚れてもらえば問題ないと紅ちゃんは一人で納得しているが、年の差が気にならなくなるのが先か、私が折れてしまうのが先か、正直分からない。
紅ちゃんが私の手を取ろうとするのでひょいと避ける。じっと、数秒睨み合った。

「文句は受け付けねェ」
「聞いたくせに……」
「俺は気にしたことがねェからわからねェ」
「私は普通に犯罪だと思う……」

こうして膠着状態に陥ると、大抵。

「おう、またやってんのか」

紺炉くんが私の後ろからやってきて、私の肩に手を置くのである。この人とは幼なじみだ。どちらが先に結婚するだろうか、などと言う話が無邪気にできていたのは二十代前半までだった。

「紺炉、邪魔すんな」
「紅もなあ、お前さんがさっさと身を固めれば諦めもついただろうに」
「結婚したいほど好きな人なんてそうそうできる?」

紺炉くんは「ははは」と笑いながら私の肩を揉んでいる。紅ちゃんはそんな気安い様子の紺炉くんが気になるのだろう、こちらにぐいっと近付いて至近距離で目を合わせられる。

「俺がいるだろうが」

うーん。たしかに、男前になったものだ。

「困ったなあ……」
「困るな、悪いようにはしねェよ」

困ったなあ、ともう一度言うと、後ろの紺炉くんがまた声を上げて笑っている。「笑うな」と紅ちゃんが言って「悪い悪い」と紺炉くんが謝る。ここまでは、だいたいいつもと同じだ。
しかし、昨日もそうだったからと言って、今日もそうとは限らない。私はこの五秒後、紺炉くんが「俺にしとくってのはどうだ?」と爆弾を投下するまで、呑気に二人に挟まれたまま唸っていた。

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20200424:リクエストありがとうございました!ハスさんから『若』ですね。今回の若も楽しんで頂けていましたら幸いです。

 

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