15万打リクエスト(3)


朝が来る。腹がへる。日が沈む。たったそれだけだった一秒に、空白の時間全てに意味を貰った。それがいいことが悪いことかは、まだわからない。

「ごめんね、今日二時間くらい残業になっちゃいそう」

二時間とはまた長い。俺は「時間がわからないとなにかと不便じゃない?」と言われ買い与えられた腕時計を見ながらソファに寝転がる。
二時間。それだけ遅いとなまえは帰って来て眠るだけだ。俺とゆっくりする時間もない。晩飯もあまり食べないし、気を張ってるのか酒も飲まないからふざけて俺に密着してくることもない。これは、なまえはしらないだろうが。

「二時間」

ふう、とため息が出る。二時間なんて、よくある事だ。忙しくなってくると毎日それ以上に帰りが遅いこともある。そうなると休日も平日の睡眠時間を取り戻すように寝ているから、やはり俺にとっていいことは無い。寝ている間にイタズラがしやすいとかその程度だ。

「待ってなくてもいいからね」

待ってなくてもいい、と言われても、待っていたいのだから仕方がない。一度、待たれるのも迷惑なのかもと一人で食べたが、味気ないなんてものではなくてやめた。以来、ずっと、なまえがなにかやむを得ない理由で食べて帰ってくる時以外は待っている。
俺にこんな気持ちを覚えさせて、と擦り寄るが、なまえに俺は男に見えないらしい。何を言ってもどれだけ際どく近付いても頭を撫でられて終わってしまう。
いつか、仕事なんかやめてもらって、俺をここで待っていて欲しいのだけれど。そんな日はまだまだ来そうにない。言葉で、感情で雁字搦めになりたい、と本気で考えていた。
もう一度時計を確認するが、時間は全く進んでいない。五分? そんなの嘘だと思うが、家の時計はどれも同じだ。
どうせ何も無いのだから、さっさと二時間経って欲しい。仕方ないから本を読み始めて、どうにか、俺はどうにか今日もこの二時間を越えた。
足音が近付いてくるのに気付いて、眠気を吹っ飛ばして飛び起きる。玄関に素早く走る。「ただいまあ」と疲れた声でなまえが言う。飛びつきそうになるのを我慢して答える。

「おかえり、なまえ」

ただいま。となまえは俺と目を合わせてもう一度言って、その次には遅くなってごめんねと笑う。こういう日は何かお土産があるのだ。
そんなのいいから一秒でも早く帰ってきて欲しいけれど、この人の前では子供のふりをして喜ぶ。
いつかぺろっと、なまえごと食べてしまうその日まで、なまえのこの笑顔で満足しておく。


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20200423:紅茶あめさんリクエストありがとうございましたー!『時計の出てくる話』でした…お相手は52くんになりました。

 

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