15万打リクエスト(1)


逆に、だが。
そんなに隠さないことがあるだろうか、と俺は思う。

「シンラさん。晩御飯なにかリクエストありますか」

やや遠慮がちにそう聞いて来た人は第七で雑務を担当しているなまえさんだ。紅丸さんとは恋人同士になったそうだ。はじめから、とんでもなく熱い視線を向けていたし納得だった。紺炉中隊長からまず「なまえに声かけるときは気を付けろよ」と言われたっけ。
新門大隊長に話し込んでいるところを見つかると「何喋ってた」からはじまって喋っていた内容を全部吐くまで離して貰えない。

「え、あ、ああ。えーっと、俺、その、し、新門大隊長の好きなものじゃなくていいんですか?」
「ん? 怒らせたんですか?」
「い、いえ、そういうわけでは! お、俺なんかのリクエストなんて聞いていいのかなーって思っただけです」
「ああ。お客さんですから、良いと思いますよ。好きな食べ物はなんですか?」
「好きな食べ物、は」

止まったのは、すぐ後ろに新門大隊長が居たからだ。じとりとこちらを見下ろしてから、なまえさんの肩を叩いた。「あれ。紅丸さん」「今日は、揚げ出し豆腐が食いてえ」なまえさんはそれを聞くと「了解しました」とにこりと笑っていた。なまえさんを見る新門大隊長の目は穏やかだが、俺の方を見るなり殺気さえも籠っている気がして背筋が凍る。大切にしているんだなあ、と微笑ましく思ったのは最初だけで、今はやや気にし過ぎであると思っている。

「紅丸さん? なにかありました?」
「……いや、何もねェよ」

ただ、自分には向けられていなくとも、新門大長の調子が悪いのがわかってしまうのだろう。なまえさんが心配そうにのぞき込むと、極まりが悪そうにしてどこかへ行ってしまった。

「じゃあ、シンラさんの好きなものは明日ですね」
「へ? あ、あの、でも」
「?」

「ひ」小さく声が漏れたのは、廊下の先に消えたはずの新門大隊長の、これは絶対わざとだろう、服の端が見えている。これは、絶対、聞かれている。しかし、どうしろというのだ。好きな食べ物なんてない、は失礼だろうし、かと言って素直に好きな食べ物を申告するのも度胸が必要だった。だが、しかし。ああああ。

「か」
「か?」
「からあげが、たべたいです……」
「! うん。了解しました。明日、楽しみにしておいてください」

なまえさんはにこにこしていたが、新門大隊長は次の日、とてもとても複雑な顔でからあげを口に運んでいた。新門大隊長、なまえさんのこと、好きすぎだろ……。


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20200420:みどりさまからリクエスト頂きました!ありがとうございます!紅丸のシリーズ気に入って頂いてありがとうございます〜!まだまだ書きたい話がありますので気長に待って頂いたらと思います!
リクエストは『紅丸夢のシリーズの夢主のお話で、第八の面々視点(視点となるキャラはどなたでも大丈夫です)で紅丸と夢主の関係はどう見えるのか、といったお話』でした〜!

 

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