10万打おめでとう/平行線の青春戦線


大変なところに居合わせてしまった、というのが不霊夢との共通見解だった。いつも通りになまえさんに声をかけようと教室に向かったら、なまえさんは何やらクラスの女子と話をしていた。珍しいなと思いながら近付くと、なまえさんではない声が「穂村くん」と話すのが聞こえて思わず見えない位置に隠れて潜んでしまった。

「穂村くんに付きまとわれてるよね」

これは、出るタイミングが分からなくなるやつかもしれない。なまえさんはややあって「まあ」と頷いたようだった。「やっぱり、迷惑してるんだ」と、なまえさんの返事に食い気味に言う。話をしているのはなまえさんと何人かの女子生徒だ。

「困ってんなら、私たちと居ればいーよ!」
「……いや、別に」
「そうそう、付きまとうとかストーカーじゃんね」
「気持ち悪ー」

ひどい言われようだな、と不霊夢が言う。まあ確かに、ほかの人間にはそう見えるのだろうし、なまえさんも同じことを思っているかもしれない。我ながら反論できなくて悲しくなってくる。なまえさんが困っているのを知っていて、それでも諦めないのは、どこからどうみても、迷惑で面倒なやつという印象しか。
がた、と誰かが椅子から立ち上がる音がした。

「穂村尊は貴女たちが考えてるような人間じゃない」

なまえは続ける。

「よく知りもしないでそこまで悪く言うのは、良くないと思う」

呆気に取られる女子グループの様子が目に浮かぶ。足音が近づいて、教室からなまえさんが出てきても、俺はしばらく感動のあまり拳を握って震えていた。俺はなまえさんにとって、とっくに、ただの変なやつではなくなっているのだ。
なまえさんは扉を閉めるとこちらをみて、酷く不機嫌そうな顔で俺を見下ろしていた。いつもの溜息の後、「……行こう」と歩き出した。
隣を歩きながら、俺だけちらちらと教室の様子を気にしている。

「今、見られたら噂になるかもしれないけど」
「なってもならなくても、ああいう人達は勝手に話作って楽しんでるんだから関係ない」
「ええと、それなら……、結局なんだったんだ?」
「匿ってやるから、宿題うつさせろとか当番代われとかそういうことが言いたかったんじゃないかな。多分だけど」

なまえさんがあまりに息苦しそうにしているから、甘いものでもどうかと誘ってみると、「気の利いた事何も話せなくていいなら」とあっさり約束が成立した。
……今日、俺にとって良いことしか起こっていないが、良いのだろうか。


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20190624:
リクエストありがとうございました! 10万打です! ありがとうございます!というわけで「平行線の〜設定でちょっとだけ尊が報われる様なお話」でした!


 

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