10000hitありがとうございます!/ボロス


その空間は、夢でも幻でもない。
強いて言うなら夢に近いが、俺とそいつは紛れもなく、間違いなく、そこに存在していた。
上も下も。
右も左もない。
俺にはひどく暗い空間に見える。
黒く塗りつぶされたような空間。
だから、その肌色と、鮮やかな服の色は、この空間によく映える。
美しいと思う。
けれど、この場所にたった2つの、俺と、こいつという存在は少しだけ寂しい気もした。
俺はずっと気づいていたが、そいつはようやく俺に気付いたらしく、落ち着き払った様子で言った。

「きみは?」
「ボロスだ」
「ふうん? そうなの? なんだか、すごくはっきりした幻を見てるみたい」
「違う」
「違うの? じゃあ現実?」
「現実とも違う。これは夢だ」
「ゆめ、か」
「そうだ。この空間、お前にはどう見える?」
「なんだか黒くて、あまり現実味がない、かな」
「人間は、こういうものを夢と表現するのだろう」
「そう、なのかな? どちらでも同じものな気もするけれど」
「そんなことは、どうでもいいことだ。違うか?」
「それもそうかな。ボロス、だっけ?」
「ああ。………………なまえ」
「うん? 私のことを知っているんだね」
「夢、だからな」
「そうか、面白い夢だなあ」
「だが」
「ん?」
「もしこれが、夢ではないとしたら?」

夢ではない。
ただ、俺の意思が俺とお前を引き合わせた。

「それは、現実に友達ができて嬉しいって感じだねえ」
「………夢に決まっている」
「それはそれで、夢で友達ができるってのも面白いよねえ」

冗談とも本気ともわからない。
なまえはからからと笑っていた。
黒い空間で、すこしだけ俺に近付いてくる。

「今更だが、怖くはないのか」
「本当に今更だけど、怖くはないね」

ついに、触れられる距離まで近づいて来て、ついには俺の肩に触れた。
あまりに弱い力だった。

「ボロスが話しかけてくれたし、なんだか楽しいから、怖くない」
「そんなものか」
「ボロスはこの場所を知ってるの?」
「ああ」
「そうなの。私は初めて来たからわからないなあ。ここは何をする空間だろうね?」
「夢に、ずいぶん理由を求めるな」
「いやあ、楽しいねえ、こんなに意識がはっきりしてて、意思が反映されるっていうのかなあ、現実みたいな夢だと思って」
「そうか」
「うん、景色変わったりするかなあ」

笑っている。
なまえは笑って、くるりと周りを見た。
黒ばかりの空間だが、なまえはここをどう塗り替えるだろう?
ほんの少しだけ気になった。
ああ。
それは、ただの興味であって、ただの興味を越えていて。

「試してみたらどうだ」

言うと、なまえはすう、と目を閉じた。
そのまま消えてしまってもおかしくはない、遠い存在。
どうにかこうにか、こうして話だけしている。
これは調査だ。
地球にいる、人間という生き物の。調査。
意識だけを引っ張って来たこの空間で。
人間は俺と対峙したとき、どんな行動をとるか。
実験。
どうでもいいような実験だ。
ただ、試されているのは、俺のほうである気がしてならない。
実験としてはどうでもいい。
そのデータはそのデータであってもいいが、俺はもっと違うものが気になっていて。
ただ、笑っていることに安心して、安心している姿に嬉しく思っていることを、もう認めてしまっている。
油断をすれば、手を伸ばしてしまいそうだ。

「そうだね、やってみよう」

目を閉じる。
そうして、両手を胸の前で組む。
なんだろう、ひどく自然にそのようにしたが、それは何を意味しているのだろう。
武術の、なにかの型、というわけでもなさそうだ。
そうして、静かにしているなまえをじっと眺めて、同じ様に目を閉じる。
なまえの姿が見えなくなるだけで、暗いことには変わりがない。
目を開けても、なまえはそこにいるだろうか。

「ボロス」

名前を呼ばれて、そっと目を開ける。
まず、なまえ。
楽しそうに笑っている。
それから。

「なんだ、これは?」
「すごいねえ」

これは。
地球の風景だろうか。
見た事の無いような花と、空の色と、光。
その景色を目に焼き付けたその後に、なまえを見下ろす。
きらきらと、なんだか眩しくて目を細める。
目を細めると、じり、となまえの姿が歪む。
ああ、そろそろ時間か。

「」

こんなとき、何を言うべきだろう。
何も言葉が浮かばない俺のかわりに、なまえが何か言っている。
けれどもう、何を言っているのか聞こえない。
姿も徐々に消えていく。

「―――!」

なにか、三文字の言葉。
なんだ、それは。
もうわからない。
にこりと、なまえだけが笑って花びらと一緒にどこかへ消えた。

「…………」

まだ、風景は残っている。
残っているが、どうしてだ。
あれだけ鮮やかに見えた花も、澄んで見えた空も、いつものありふれた、つまらない、何の刺激もないものに変わってしまった。
こんな、満ち足りない気持ちをなんというのだろう。
あの時、何を言うべきで、なまえは何を言ったのだろう。
ただ、話がしたかった。
触れてみたかった。
けれど、こんなことはしてはいけなかった。
攫ってしまう決意もなく。
触れてみるような勇気もなく。
何がしたいのかもよくわからず。
その時の俺はあまりに中途半端だった。
何のための時間だったのかさっぱりだ。
ただ、頭の中に、なまえの楽しそうな顔だけが焼き付いていた。
さいごまで。


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以下コメント返信
海野さま→
リクエストありがとうございます!
おかげさまで10000打と相成りました、まだまだ増やしていく予定ですので是非またよろしくお願い致します。
小説は「人間に恋するボロス」の方で書かせていただきました。
ジェノスくんの方でも良かったのですが、ボロスさまの方が面白くなるかもと思いボロスさまの方に。
なかなかに通じ合わない話になりました、たぶんボロス様と恋をしようと思ったら大変で、かなりのパワーがいるかなあと思います。
さて、この度は、リクエスト、コメント本当にありがとうございました!
またいつでもお声をおかけ下さい。

 

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