10万打おめでとう/遊作


すごいものを見てしまっている、という気がした。自分も綺久とは幼馴染だが、ああはならなかった。
Aiはもう慣れてしまったのか気にもとめていないけれど、僕と不霊夢は相変わらず圧倒されている。この気持ちに気付いてくれるのは草薙さんだけだった。

「なんか、すごいですね」
「はは、そうだろ。けど最近は、自分の立ち位置もちょっと考えないといけないかもしれない、とか悩んでるらしいぞ」
「ほう? それはまた一体何故?」
「なんでも、俺やAi、尊が一緒に戦ってくれるから出番が減ったし、必ずしも隣にいる必要はないのかも、ってな」
「それは、悩む必要があるのか? なまえは女性だし、ここにいる誰にもなれないものがあると思うのだが」
「なんだそりゃ?」
「やれやれ、少しは考えろ。ヒントは性別だ」
「性別……」

なまえは遊作が要件を言う前に遊作が欲しいものを差し出すし、デュエルとなれば伏せたカードや手札を確認せずに言い当てる(遊作ならこれくらいやる、とそこにあるのは信頼と呼ぶには確かすぎる気持ちで)、遊作は遊作で、なまえが調子の悪い時(僕にはわからない)や、変化を一瞬で見抜き円満な関係を築いている。
二人とも元々穏やかだが、どこにいても一定の距離でお互いのことを観察し合っている。
そんな存在、居てくれるだけで有難いのではと思うのだが、なまえはもっと別の何かを目指したいのだろうか。これ以上、近しい何かになるとしたら。

「ああ、彼女になるってこと?」
「なればいい、と俺は思うんだが……」
「何か問題でも?」

問題ってほどでもないが、と草薙さんが頭を掻く。そして、店番すらもぴたりと同じ呼吸でこなす二人を見た。

「俺はあの二人が迂闊にああやってるのが好きだからな。もしかして、本当に付き合うようになったら、外ではよそよそしくなるかもしれないだろ? それが、寂しい気がするだけなんだ」

そうですか、俺はわかったようなわからないような気持ちで言った。不霊夢は腕を組んだ後「なるほど」としきりに頷いていた。
お客さんがいなくなると、二人はなにか言葉を交わしてひっそりと笑い合っていた。世間から隠れるように存在する、小さな世界がそこにある。

「肩書きひとつで解決する悩みではないのだろうな」

不霊夢がぽつりと言ったので、大抵の事はそうだろうと頷いた。しかし、近いうちになまえは決心して僕に教えてくれた「私は、何にでもなりたい」と、「その時必要なものになっていたい」と、そこになまえは居るのか、と聞いてみると、「もちろん。全部私だよ」と力強い答えが返ってきた。


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20190621:リクエストありがとうございました!「遊作の幼馴染でプレイメーカーの相棒」でした!

 

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