10万打おめでとう/田噛


秩序と平和を暴力的に守っていくのが獄卒だと思っている。現世で亡者が暴れているとなれば締め上げに行くし、あの世で問題が起こったとなれば迅速に解決に向かう。問題になる前にどうにかするのも重要だ。今日みたいに、その予兆があれば調査と称して現場へ出向く。
現世の深い森の中、使われなくなりそのまま放置された教会を、魑魅魍魎が取り囲んでいた。奴らはどうやら、教会にいる何かを狙っているようであった。うっすらと張られた結界の周りをぐるりと、隙間なく群がっている。
俺がひとりで教会へ近付くと、奴らは、ぎろりとこちらを睨んで、ターゲットを俺へと切り替える。面倒な量だ。しかし、放っておいてはもっと面倒なことになる。それは勘弁。ツルハシと、鎖を構えて前へ出る。
何匹か倒してみても、数が減らない。何事かとよくよく観察してみれば、倒した端から新しい奴が湧いてくる。チッ、平腹も連れてくるんだった。面倒になってきて堪らず結界を背にすると、俺の体はするりと結界の中へ入り込んだ。
入り込んで、まず、結界内の空気の清々しさに驚いた。森の中はじめじめしていて、魑魅魍魎の臭気が立ち込めていたというのに。ここでは、爽やかな風が頬を撫で、ここならば安心だと確信できてしまう。
しかし、だ。この空間を作っているやつが、諸悪の根源である。こんな場所にこんな空間を作りやがるから、魑魅魍魎が救いを求めて無駄に集まったりするのである。余計なことをしやがって。一体どこのどいつの仕業だろうか。
奥へ奥へと歩を進めて、礼拝堂へと辿り着いた。

「……貴方は、獄卒ですね?」

声をかけてきたのは、礼拝堂の中央で佇むーー、

「はじめまして」

背に大きな白い翼を携えた、天使であった。
羽も白ければ、服も肌もなにもかもが白く柔らかそうだ。

「こんなところで、なにしてんだ。魑魅魍魎が集まって迷惑だから今すぐやめろ」

俺が用件を簡潔に伝えると、天使の女はゆっくりとした動作でにこりと笑う。白く光って嫌に眩しい。ただでさえ眠くて開ききらない目が、余計に細くなってしまう。ほとんどなにも見えないくらいに目を細めたことは、後で後悔することになる。私、と天使は鐘のような声で言う。

「運命のひとを、待っていたのです」

あまりに突然で、嘲笑ってやることも出来なかった。


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20190616:
リクエストありがとうございました!「田噛お相手で、廃教会で天使夢主と出会う話。夢主ちゃんは、敬語口調の優しげなお姉さんな感じ」です!

 

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