10万打おめでとう/遊星


決して邪魔にならないように置かれたマグカップだとか、冷めても美味しい夜食だとか。優しく温め覚醒させる朝食もだし、いつの間にか覚えて来ていたマッサージもそうだ。

「よう遊星! なにしてんだ?」
「クロウか。……今、なまえを見ていた」
「ん? あいつなんか調子でも悪いのか?」
「いいや、そうじゃない」

食器を洗う後ろ姿はいつも通りで、楽し気に家事をこなしている。頼れる後ろ姿だと思う。その彼女に、やってもらったことならいくらでも言葉にできるのに、自分がやったことが全くない。だから、今日は何か、彼女が喜ぶ何かをしたいと観察しているというわけである。

「はー、おアツいことで……、でも、まあそういうことならこのクロウ様も手を貸すぜ?」
「いや、これは俺一人で」
「いーっていーって、気にすんなよ。俺だってなまえには世話んなってるし」

まだ、なにをするか決めてもいないのに、クロウはなまえから皿洗いの仕事を取り上げて、洗い場から追い出した。なまえはエプロンで手を拭いながらこちらへ来る。不思議そうな顔でこちらを見下ろした。

「なんだかよくわからないけど、クロウが遊星といちゃいちゃしてこいって」

何か用事だった? と真面目にこちらへ問いかける彼女の手を引いて、部屋へと戻る。クロウが親指を立てていたから、また今度、クロウにも礼をしなければ。

「遊星?」
「用事、というような用事はないんだ」
「ああ、そうなの?」

ただ。
日頃の礼がしたいと思った。なにか、なにかないかとまだ考えている。ベッドの縁に二人で座って、なまえはずっとこちらを覗き込んでいる。
俺が何も言わないせいで、その内、腕にするりとなまえの腕が絡まる。

「……なまえ?」
「せっかくクロウが時間くれたからね」
「そう言えば、こんなにゆっくりするのは、久しぶりだったか」
「そうだね。久しぶり」

先程まで洗い物をしていたからだろうか、洗剤の匂いがして、俺もなまえの髪に顔を寄せる。が、すぐにはっとして、なまえの正面で膝をつく。今日は、そうではなくて。

「なまえは」
「うん」
「なにか俺にして欲しいことはないだろうか」

いつも、もらってばかりだ。
なまえは目を丸くして驚いていたが、すぐに俺やみんなが大好きな柔らかい笑顔を見せてくれた。それもだ。いくらでも勇気が沸きあがるような、言葉や表情。

「実はそんなこともないんだけど、そういうことなら、」

そっとこちらへ落ちてくるなまえを抱きとめた。聞いてしまっては意味が無いとは思いながらも、この瞬間が愛しくてたまらない。細い体に腕を回してひたすら想うのはなまえのことだ。
次はきっと、君みたいに。


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20190607:
リクエストありがとうございましたー!「不動遊星で、女主恋人設定でほのぼの夢」です!
夢褒めて頂いてありがとうございます、ウィンディ、かわいい、ですよね…。ほんと…。ほんとに…。

 

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