10000hitありがとうございます!/ソニック


家で、すぐになまえを見つけることが出来なかった。
いつもならば作業場かリビングか、あるいは地下で寝転がっていることもある。
そういう時は大抵雨の日でうまく気分が乗らない時が多い。
それはいいが、どうやら留守にしているようだ。
今日は仕事は休みであるはずだけれど、1時間経っても戻ってこない。
買い物、ならばこんなに時間はかからないだろうし。
遊びに行っている可能性もほんの少しだがないではない。

「……ん?」

暇を持て余してリビングでだらりとしていると、一冊のノートを見つける。
ぱらりとめくると、いつどんなパーツを買ったか、どれだけ稼いでどれだけ出費したか、なんてことが書いてある。
なかなか細かいことをしている。
こういうことを、いつ覚えたのか知らないが、いつの間にか、立派に町の修理屋をしているのだから大したものだ。
にじむ忍びの里のにおいは完全には消せていない。
けれど、一般人と混ざると少しだけ浮きはするものの、そういう人間だと片付くレベル。
見えない努力が垣間見える。
だんだんとページをめくっていくと、あるページからレイアウトがガラリと変わる。
が、次のページから元に戻っている。
やりずらかったのだろう。
少し面白くなってきて、さらに先へ。
何の変哲もない出納帳。
ページ端に、時折、使いすぎただの、目標達成だのと書いてある。
ついぞそれでは書き足りなくて、1ページ丸々日記になってしまっているところも見付けた。

『夢を見た。』

そんな出だしからはじまる、そこだけ、宝物のように丁寧な文字で書かれている。

『書いている端から忘れてしまっているけれど、良い夢だったから覚えておきたい。
私とソニックが、路を行く夢だった』

じっと、読んでいく。

『どことも知らないような路で、街だったり川だったり、海辺だったりこの世界ではなさそうな場所だったりしたけれど、少しも不安ではなくて、ただただその状況をたのしんでいる。どこまで行ってもソニックが隣にいてくれる、そんな夢だった』

ここまで読んで口元が緩むのがわかるが、まあいい。今ここには俺しかいない。
しかしこれで、俺のことは恋愛対象でないのだからいっそ驚きだ。
読み進める。

『でも、もうあまり思い出せなくて、もっとどこかの祭りとか、他にもいろんな場所に行ったはずなのに、行ったはず、なんて言葉だけになってしまった。隣にいてくれたのが本当にソニックだったかもわからなくなってしまっている。
もしかしたら、違う誰かだっただろうか?
とは言え、もう確認出来ないし、こんなに気分がいいんだから、くだらない事を考えるのはよそう』

それ以降も文字だったが、誰とどんな話をしたかということが延々と書かれているだけで、なまえ自身のことが書かれていたのは1ページの中でこれだけだった。
大した内容でもない。
ただ、夢を見たという話だった。
けれどなんとなく、俺がその中にいるようでいないのが、すこし腹立たしい。
それは俺ではない。
ただし、なまえがそれを俺だと思ったのなら、それは俺なのだろう。
だから、悔しがる必要も残念に思う必要も、俺にはない。
これ以上面白いページはなさそうだとノートを閉じると。
こつん、と、何かを叩く音がした。
上から聞こえる。
一応警戒しようと足音を消して2階へあがる、なまえの寝室に入ったところでもう一度音がした。
こつん。
屋根を外から叩くような音。
俺はベランダから外に出てそっと屋根の上へ。

「……こんなところでなにをしている」
「見てのとおり、干されてるね」

言ったなまえは屋根の上でだらりとしていて、力なく体を起こすと、ひらひらと手を振った。
その後すぐに、まただらりと屋根の上で空を見上げる。
俺も隣に座る。
いないと思ったら、こんなところにいたのか。

「……さては気付いていたな? なぜもっとはやく呼ばなかった」
「ごめん、待ってたら寝てて……」
「……」
「ごめんね」
「待っていたのか」
「んー、まあ、少し」
「ふっ、俺を試すとは……」

なるほど、少しだけ気分が落ちているのはそのせいか。
なまえはあまり探し物をしない。
いつだってその直感は人間ものと思えないほど鋭く、こいつはそれがかなり、自分独自のものであるとわかってはいるが。
俺に見つけて欲しかったのだろう。
あるいは、そんなことは考えていなくて、目が覚めたら1人だったことが、ただ寂しかったのかもしれない。
こいつならば、たとえ俺がどこにいても、探そうと思えば一瞬だ。
昔はそれを好かれているからだと思ったこともあったけれど、すぐに誰に対してもそうなのだと気付いたり。
なんだか物足りなそうにこちらを見つめるなまえの手をとって、するりと指を絡める。
そのまま少し力を入れると、なまえもゆるく握り返す。

「すまなかったな」
「え、いや、私もごめんね」

詫びのつもり。
けれどただの口実だ。

「どこか行くか」
「……どこかって?」
「『街だったり川だったり、海辺だったりこの世界ではなさそうな場所だったり』」
「あ、あーー、ノート読んだの?」
「行くか?」
「………」

なまえはむくりと起き上がって、じっとこちらを見ている。
俺も、なまえと同じだ。
行きたいと言うのを待ってる。
なまえは、行こうと言われる方が嬉しいのだろうか。
きっと、俺がなまえがほしがるもの全てをやることは難しい。
それに、俺は俺で欲しいものがある。
夢の中の俺を思い出せないなんて嘆くことはないし、そもそも、もうどこへでも行ってきたのだから。

「……うん、行きたい」

望むのならば、どこへでも。
どこに行っても大丈夫だ。
なまえはきっとどこででも笑って、きっとこちらを見上げるのだろう。
何度も繰り返したシーンだが、まだ、ちっとも足りない。
恥ずかしそうに嬉しそうに、器用に目を細めて笑うなまえの、少しだけ面積が広くなったまぶたに唇を寄せた。

「行くか」
「ん」

世界を征服したいバカの気持ちがすこしだけわかる。
まだまだ、楽しめそうだ。


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20160421:以下コメント返信
しのさん→
リクエストありがとうございます!
いつもお世話になっております、管理人のあさりでございます。
はい、おかげさまで一万hit達成となりました。大変嬉しいです。調子に乗って始めたリクエスト企画でもたくさんのリクエストを頂けて感無量であります。
そんな訳で長編連載シリーズ、恋人になる前の2人で、「まぶたにキス」をする話を書かせていただきました。
とりあえず、そんなシーンはありますがこんな感じで大丈夫でしたでしょうか。
恋人になった今ならば、夢主はきっと深々と頭でも下げながらデートしましょうとか言うのかも知れません。
最後の世界を征服したいバカの、のくだりは、サイタマさんなら「世界が俺のじゃなくてよかった」になって、ジェノスくんなら、ジェノスくんならなんなんでしょうね。
ただ、そのどちらの言葉にしようか迷っただけなので全員分のラストを考えた訳では無いのです(笑)
刀編を書いていた頃がずいぶんと懐かしく感じられます。
読んでいただけたようで、重ね重ねありがとうございます。
もしよろしければ、またお気軽にご感想など送っていただければなと思っております。
思わず感想を送りたくなるような話を書けるようにこれからもいろいろ書いていきます。
それでは、コメント、リクエストありがとうございました。

 

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