10万打おめでとう/谷裂


窓を開けて、ぼうっと空を眺めていると、最近、すぐ近くに谷裂が立っている。例のごとく彼は私を睨みつけ、何を話すわけでもなく、私が移動するまでそこにいるのである。
たぶん、きっとなにか用事があるのだとは思うが、何故私がわざわざ、「なに?」とか「用事は?」とか聞かなければいけないのか、分からなくなってきた。
だからわざと放置していたのだが、もうひと月近くこんなことが続いており、いい加減になんとかしなければ佐疫あたりに怒られそうだった。怒られる理由はわからないが、佐疫に怒られるのは面倒だ。
ちらりと、例のごとく空を眺める私の横に、谷裂がいる。私が視線を投げると、谷裂は全力で目を逸らしてそわそわとしている。
居づらいなら無理にそこにいる必要は無いのに。

「あの、谷裂」
「なんだ」
「毎度のことなんだけどさ、なんか用?」
「……」

おや、と私は顔を上げる。用はない、とか何も無いとか、そういう答えが帰ってくるかと思えば、谷裂はじっと黙り込んだ。もしかして、本当に用事があるのだろうか。もしそうなら、申し訳ないことをしてしまった。

「なんだった?」

聞けば、しばし、口を開けたり閉めたりしていた谷裂は、意を決したように私を見据えた。

「今日は、天気がいいな」

天気……? 私は薄暗い雨雲と、バケツをひっくり返したような大粒の水滴が降り注ぐ空を見上げる。天気がいいだろうか。世間一般ではあまり良い天気とは形容しないと思うのだが。
谷裂にとってはいい天気、なのかもしれない。私は、濡れたくないから窓を締めてざあざあとばちばちと鳴る雨音を聞きながら谷裂を見上げる。

「雨が好きなの?」
「……」

谷裂は何も答えなかったので、私のことをひとつ話した。

「私は、嫌いじゃないよ」
「そうか」

何に緊張して落ち着きがなかったのか知らないが、彼はようやく心を落ち着かせて、ほかの獄卒たちにするように返事をくれた。

「それならば、俺もだ」

それで用事は、と聞いてみると、今のがそうだが、と不思議がられた。世間話くらいもっと気軽にしてくれ。


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20190524:
リクエストありがとうございました! 「獄都事変の短編の「おはよう」や「おやすみ」での谷裂と天気のお話。荒れた日のお天気とか」です!

 

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