10万打おめでとう/不霊夢


「書類上の手続きすら不可能だ」

不霊夢はそう言いながら私を見上げて、緩く頭を左右に振った。しかしだ、私はここで引下がるわけにはいかないのである。例えば、と、テーブルに両手を置いて、不霊夢の前に顔を持っていく。

「……例えば、指輪を付けるとか」
「ふむ。他には?」
「結婚式をするとか」
「なるほど」
「新婚旅行に行くとかはできる」

呆れてはいるのだろうが、馬鹿にされてはいない気がした。私たちは至極真剣に見つめ合った。「そうだな」不霊夢はひとつ頷いてから続ける。

「それは全て、結婚式にまつわる外形的なことに過ぎない。それをしたからと言って我々の関係が劇的に変わることも、知れ渡ることもない」
「………つまり?」
「つまり、それらは全て結婚とは言えない」

どれだけ、人間の尺度で言う結婚を求めても、形だけのものでしかない、と、不霊夢はそう結論付けた。その通りなのだろう。彼の言うことはいつも正論だ。私は続ける言葉を失う。

「困ったね」
「そう思っているのは君だけだ」

ゆるりと持ち上げられた手のひらが、目の前でぱっと開く。不霊夢は別に困らないらしい。へこむなあ。私はゆるく笑って「そう」とだけ答えた。困らないんだ。ふうん。

「こうは考えられないか?」

完全に落ち込んで拗ねていると、不霊夢は嫌に明るい声音で続けた。デュエルをしている時の彼のような、慎重で、しかし熱に満ちた声。

「我々にできないことは、必要ないからできないのだ、と」
「……ひつよう」

私が望んでやまないものは、彼には必要ないのか? そう考えて泣きそうになったところで不霊夢は慌てて否定した。

「違う、ここで言う必要は、生産性の話じゃあない。わざわざ書面で契約を交わし雁字搦めにする必要性のことだ」
「つまり?」
「私も君もお互いを想い続けるだろう。ならばそれはもうその時点で」

それ以上のことは必要ないのではないか。と、不霊夢が真剣な声で言った。小さな手が私の左手の薬指に触れる。

「ただ、そうだな。必要だと思うなら、なまえの望む外形的なことも、すべてやろう」

難しい話はもう終わりだ。


-----------
20190519:リクエストありがとうございます!
『どうしてもAIと結婚したい女の子のおはなし。(どのイグニスかはお任せします!)』とのことでしたので、不霊夢で書かせて頂きましたー!

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -