10万打おめでとう/肋角


「ご苦労。それで、その怪我はどうした?」

私は極めていつも通りに笑って言った。

「ちょっと取っ組み合いの喧嘩を。勝ったので問題ありません」

報告書に不備はない。任務も予定より早く終わった。もちろん手は抜いていない。首尾は、いつにも増して完璧であった。
だと言うのに、肋角さんは真顔でじいっと私を見ている。

「それはなによりだが、お前が喧嘩とは珍しいな」
「多分むしゃくしゃしてたんだと思います」
「それだけか?」
「それだけです」

肋角さんは煙管をことりとテーブルに置いて立ち上がる。どこへいくのかと無言で見守っていたら、ソファを指さして私に言った。

「冷やしてやるからここに座れ」
「えっ、だ、大丈夫ですよ、この程度の腫れ、すぐに引きます」
「なまえ」
「……ありがとうございます」

肋角さんはわざわざ食堂で氷と袋をもらってきて、タオルにくるんで、私の左頬にピタリと当ててくれる。つめたい。つめたさが、ほんの少し染みる。
大人しくしていると、肋角さんが私の怪我を冷やしながら言う。

「それで、本当は何があった?」
「なにもありませんよ。喧嘩というのは、まあ、殴り合いになったら両方悪いんですよ」
「そうか?」
「そうです」
「そうは見えないが?」
「……そうですか?」
「ああ」

肋角さんは、私に何かあったことを確信している様で、空いている手で私の頭をさらさらと撫でた。大したことではないのに、こんなに色々してもらって申し訳ない。本当に、大したことではないのだけれど。
優しさに触れて泣きそうな目を閉じて、肋角さんの手に導かれるまま胸まで借りた。

「ありがとうございます」

肋角さんの煙管の匂いがこの上なく私を癒したから、私は明日も獄卒として生きていく。



「佐疫」
「あ、助角さん。どうかしたんですか?」
「悪いが、これを燃やしておいてくれるか」
「? はい、わかりました。焼却炉に入れて置いたら良いですか?」
「ああ。それでいい」

三つの黒い袋が肋角の手から佐疫の手へと移った。
それからまとめて焼却炉に放り込まれて、塵も残らず燃え尽きた。


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20190517:リクエストありがとうございました!「任務帰りに他部署の奴に絡まれて言われた事に凹みつつも、返り討ちにはしたけど顔に大痣できて、帰還後になんやかんやバレて肋角さんには甘やかされつつ、絡んだ奴は」って話でした!

 

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