10万打おめでとう/遊作


電話がかかってきた。早朝だ。あと10分で学校へ行くために家を出る。私は朝食を食べながら「はい」と応答した。

「隣の駅で踏切の点検をしていたらしい。おそらく少し電車が遅れる」
「ああ、そうなの。ありがとう」

電話を切ると立て続けに通知音がした。元情報のURL。人身事故じゃないのなら、そこまで大幅な遅れはないだろうな、と判断して、いつも通りに駅へ向かった。

「おはよう。今日はちゃんと朝食を食べてきたんだな」
「おはよう」

言われてから、まあ軽くバナナとヨーグルトなんかをね。健康的でしょう、と教えた。遊作は、そんな情報は把握済みであったらしい、ああ、と頷いて、夏も近付いてきたというのに、ぴたりと隣を歩き始める。
立っているだけで、手の甲が触れている。
信号ひとつ超えたところでついに、するりと指が絡んだ。

「朝はともかく、夜もそういう食事で済ませるのはやめた方がいい」
「うん、そうだね」
「せっかく料理が上手いんだ。さぼってばかりだと腕が錆びるぞ」
「んん」

なまえ、と呼ばれたが遊作の顔を見上げることは無い。

「聞いているか?」
「聞いてるよ」

私にはどうすることも出来なかった。これは私の問題でもあるけれど、ほとんどは遊作が抱える問題だ。朝なにかと理由をつけて電話をかけてくるのも、最寄りの駅が違うのにこうして手を繋いで通学するのも、振舞ったことの無い料理の腕を褒められるのも、私の生活の様子が筒抜けであることも、私にはなんの非もないことなのである。

「それならいい」

ちらりと遊作を見上げる。
心の底から安堵したような、柔らかい笑みを見てしまって、こわいな、の四文字を自由な方の手のひらで握り潰した。
いつ、飽きるんだろう。
ため息は隠せなくて、調子が悪いのかとか、だるいなら休めとか質問攻めにあうことになった。体の中のことまではわからない、と。
そうだね、と必要最低限の返事をする私は、もう随分と笑えていない。


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20190513:リクエストありがとうございました!「ヒロインの心配すぎてストーカーに片脚突っ込みつつある遊作」でした!

 

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