10万打おめでとう/斬島


なまえは、いろんな場所を知っている。人間であるのだから当然なのかもしれないけれど、そうでなくても、様々なものの楽しみ方を知っている。今日は人混みをするすると歩くなまえについて、導かれるまま遊園地に来た。慣れているのかやっぱり迷いなく歩いていくなまえについて、最終的には、観覧車に乗り込んだ。こういうものなのだ、となまえは笑った。俺は何度もなるほどと頷いて、しかし、なかなか、なまえを心の底から楽しませてやれている自信が持てないでいた。
そんな俺に、佐疫は、「斬島がしてもらって嬉しいことは、きっとなまえさんも嬉しいし楽しいはずだよ」と言った。俺はこの言葉にもなるほどとただ頷いた。
恋人らしいこと、恋人が当然していることを、やってみると、なんだか、俺は堪らなくなるから、今日もまたそうしてみようかとなまえに手を伸ばす。(前に、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしてはいけないと言われたので、本当にそうしていることを確認してから、なまえに触れる)

「ん、え、どうしたの」
「恋人同士は、こうするものだろう?」

向かい合って座っていたのに、突然片側に俺が移動したから、少し揺れる。

「へっ?」
「前の組みも、その前の組もやっていた」
「あーーーー、熱心に上見てるなと思ったらそういうこと……」

ぐ、と顔を近付ける。もう、下から見たら、キスをしているように見えるだろう。そうならいいと俺はわざとその位置で聞いた「嫌か」「嫌ではない、嫌ではないけど」けど?
なまえは、年が、とか、こんなベタな、とか言いながら視線をさまよわせた後、ぱちりと俺と目を合わせた。
俺はどんな顔をしていただろうか。なまえはふ、とやわらかいクッションのように微笑んで、俺の頬に触れた。

「ーーーー」

音もなく、唇を合わせた。

「……」

案の定一度じゃ足りなくなって、もう一度顔を近付けたけれど、これはなまえに止められてしまった。「観覧車でキスしていいのは頂上で一回だけだカラ……」と必死であった、そういうものか、と俺が聞くと、ソウイウモノダヨと、なまえは言った。

「そうか……」

俺が諦めて離れると、なまえは、困ったように笑った。楽しんでいるか、は相変わらずにわからない。けれど、この笑顔が俺以外に向いているところを見たことがないから、まあいいか、と満足した。きっと大丈夫だ。
なまえの笑顔が鮮やかなのを、今日もまた、思い知った。


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20190511:
リクエストありがとうございましたー!【社会人夢主さんと斬島くんで観覧車、ほかのカップルさん見てちゅー】でした! 社会人夢主と斬島の話気に入って頂いて嬉しいです……! また楽しんで頂けていたら幸いでございます!

 

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