10000hitありがとうございます!/ジェノス


「無闇に敵の攻撃にあたるものではないわ、相手怪人ならば尚更。どんな攻撃手段を持っているかわからないもの」

俺の、錆びてしまった右肩を見ながら言った。
それはその人の言葉だった。
綺麗な短い髪をしていて、さらさらと風になびく、しかしてその白い肌やしっかりとした双眸はどこにも揺れることはなく。
ただただ、凛としたその人を、俺はこっそり、探していたのだ。
そう、サイタマ先生の弟子になった、今でも。
その人に出会ったのは、俺がサイボーグになってすぐくらいのこと。
機械の体の特性も掴めず、敵の解析を怠った。
ただただ俺のミスだった。
そんな俺をさらりと助けて、そのまま風のように消えてしまった。
その人のことを、ずっと、捜していた。
だからきっと、この出会いは、俺の3度目の運命の出会い。

「あの! 待って下さい!」

買い物袋を放り出して、一瞬停止して、その一瞬後に走り出す。
その横顔は忘れられなくて、その後ろ姿もよく覚えている。
嘘だ。
でも、この感じは。
これは。
あの人は。

「すみません、そこの、っ! ショートヘアーの………!!」

ぴたり、と歩みが止まる。
そう、貴女のことだ。
振り返る、その双眸は見間違えようがない。

「…………ああ、いつかの」
「覚えていて下さったんですねありがとうございます俺はジェノスといいます貴女の名前を教えて頂きたい!」

一息で言うと、彼女は一つため息をついた。
呆れられてしまった。

「走って逃げたりしないわ、落ち着いてくれる?」
「あ、はい、すみません」

一度、深呼吸をはさんで、もう一度。

「名前を、教えていただけませんか」
「…………何故?」
「もしあなたにまた会えたら、ずっと言いたかったことがあるんですが、その前に名前だけでも知りたいと思っているからです」
「名前がなくては困ることなの」
「いえ、そんなことは………」

揺れない瞳から何が読み取れる?
もしかしたら、聞かれたくないのかもしれない。
けれど、そんなこともなくて、ただの気まぐれなのかもしれない。
どちらでもいい、そんな程度のことに、これは左右されないのだ。

「では、いいですか?」
「なにが?」
「俺の話を、聞いてくれますか」
「手短に済むのなら」
「はい」

さらり、と彼女の髪が揺れる。
きっと俺の髪も風になびいているのだろう。
その言葉は、たった一言。

「貴女のことが、好きです」

ただでさえぱっちりとした目を更に見開いて。
ああ、驚いてくれるのか。
俺のようなものの言葉でも、彼女の感情を動かすことができるらしい。
色良い返事を期待する、というよりは、その事実の方がずっと嬉しかった。
けれどすぐに、す、とこちらを見据えて。
ああ、綺麗な目を、していらっしゃる。

「そうなの」
「はい」
「…………それは、私は聞くだけでいいの? それとも何かしらの言葉が欲しいの?」

こまっていることは、わかる。
無茶苦茶なことも言っている自覚はある。
一目惚れという名前のある現象でも、それがわかるのは自分だけ。
ここまで言ってしまった俺に出来ることは、ただ真剣に言葉を紡ぐことのみ。

「よろしければ、俺と付き合って下さい」

言いたいことは。
もっとある。
こういう時に言葉を重ねる方が本心に聞こえるのか、それとも今回選んだようにただ一つだけを伝える方が本心に聞こえるのか。

「驚いた、思ったより、軽々しく聞こえないものね」

俺はじっと待つ。
どうするべきかと聞いたのだから、何かしらの言葉をくれるだろう。
彼女は何を言うだろうか。
罵倒だろうか、呆れた言葉だろうか。
それとも。

「そうね、条件があるのだけれど」
「条件?」
「ええ、名前をくれる? そしたら私は貴方と付き合うことにするわ」

条件。
名前?
処理速度が追いつかない。

「…………今、何と言いましたか?」
「嫌ならいいのよ、そして聞こえなかったのなら、そこまでだったんでしょうね」
「す、すみません、聞こえていました。わかりました、ありがとうございます!よろしくお願いします!!」

ふ、と細められる目は、強く輝く月のよう。

「じゃあ、名前を」
「あ、少し待って頂けますか、1日時間を下さい。俺はそういう、ネーミングセンスというか、そういうものがよくわからないので、名前を考える時間を」
「そんなもの、適当でいいわよ……」
「そうはいきません! それでは、明日またここでお会いすることはできますか?」
「あした、は難しいわね。また一週間後ならなんとかってところかしら」
「わかりました! あ、家まで送らせてください」
「それはいいわ、貴方だって買い物の途中でしょう」
「あ、はい……」

喜ぶ間も、驚く間もない。
彼女は淡々と。

「じゃあ、また。ジェノスくん」

たっぷり、1時間、その場から動くことは出来なかった。


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20160418:以下コメント返信
真琴さま→
リクエストありがとうございます!
はじめまして、真琴さま、管理人のあさりです。
ジェノス相手の「機械の身体に慣れないジェノスの手助けをした女主(クールショートヘア)とz市で再開を果たし結ばれる甘」です。
ですか?
このコーナーこんなことばかり言っていますがどうかお許しを……。
という訳で普段あまり書かないテイストの話になりましたがいかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけていたらとても嬉しいです。
この度は、応援のお言葉と、リクエストを頂きまして本当にありがとうございました。
それでは、よろしければまた遊びにいらしてください。失礼致します。

 

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