10万打おめでとう/ウィンディ


データの世界にも風は吹く。僕は通り過ぎた風の行方に視線を向ける。
ただそれだけの事だったのに、目の前のこいつは何を勘違いしたのかワンテンポ遅れて僕と同じ方向を確認した後、見当違いなことを言った。

「寒い? 何か持ってこようか」

僕達よりもかっちりとした指先がこちらへ向かってきた。放っておけばどこまでも突き進んで行きそうな真っ直ぐな見た目と性格のくせに、触れた指先は嫌に柔らかくて弱々しい。

「それとも、お腹がすいたとか?」
「もし、そうだったとして、お前には何も出来ないだろう」
「うん。おれにはなにもできないね」

せいぜい、おれのデータをあげられるくらいかな? 冗談とも本気とも取れないの言葉を受けて、少しだけ想像する。もしそうしたら、どうなるだろう。シュミレーションとは言えないくらいの簡単な想像。
終えると、その結果として提出するにはあまりに抽象的な所感が浮かぶ。甘ったるくて胸焼けしそうだ。だから、こいつのデータなど取り込みたくはない。

「いらないよ。寒くもないし空腹でもない」
「そう? それならよかった。暇なら一緒に遊ぼうか?」
「遊ばない」
「何かしなきゃいけないことがあるならおれがやっておこうか」
「人間にイグニスの代わりは務まらない」
「デッキの確認とか」
「そんなものは自分でやる」

よくもまあそんなにも、他人にやってやりたいことなど思いつくものだなあとため息をついた。すかさず「疲れた?」などと毛布を用意してくるからきっとこいつはどこかおかしい。

「……そこで黙って大人しくしてろよ」

僕が言うと、こいつは律儀に頷いた。サイレントだ。
静かになった。
ひとつの息遣いを除いて何も聞こえてこない。
こうなれば、こいつの隣も悪くない世界だ。


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20190503:ウィンディ夢は書くしか無かったですよね…リクエストありがとうございましたー! 広がれイグニスの輪。という感じで、『ウィンディと過保護な少年とのお話』でした!

 

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