10万打おめでとう/平行線の青春戦線
「あ、」と不霊夢と声が重なった。隣を歩いていた遊作とAiはきょとんと同じように首を傾げていた。
「あ、いや、その、なんでもないよ」
慌ててついそう言ってしまった。遊作は興味がなさそうに「そうか」と納得したが、Aiは「なになに? 知り合いでもいたのか?」となかなか鋭いことを聞いてきた。「まあ」と、どっちつかずな返事をしつつ、彼女が通り過ぎて行った方をちらりと見る。
「尊。ここは変に意地を張らずに彼らに協力して貰った方がいいんじゃないか?」
「バ、バカッ、きょ、協力ってなんだよ」
「彼女と仲良くなりたいんだろう? 我々だけでは方法を決めかねていたところだ」
「おい、」俺の制止もさっぱり聞き入れられず、Aiがひゅるりと伸びてきて「なになに!? なんか面白そうな話か!?」と喜んでいる。「ああ、実は、」こうなれば遊作がくだらないこと話してないで行くぞとか言ってこの場を流してくれるくらいしか。ちらりと遊作を見るが、遊作もまた、興味深そうに不霊夢の話を聞いていた。逃れられそうにない……。
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へーー!!! とAiはテンション高く不霊夢と俺とを交互に見た。「みょうじなまえって生徒に一目惚れしたから、仲良くなりたいとか。青春だなあ尊ちゃん! 遊作も見習えよ」厳密には一目惚れではなく、いや、一目惚れのようなものだけれど、あの時俺が見たのは、彼女の外見だけではなくて……。「そこで、二人の意見を聞きたい」お前は勝手に俺の恋愛相談をするなっての。
「尊が彼女に近付くにはどうしたらいいだろうか?」
「……」
「……」
Aiと遊作は顔を見合わせた。いや、なんだよその反応。黙るな黙るな。こうなったら茶化すなりなんなりしてくれ。この沈黙は一体なんだ。
「え、えっと……遊作?」
「……俺にしたように近付けばいいんじゃないのか?」
遊作は少し困っていた。Aiも今見てる昼ドラではどうしてたっけなー、などと考え込んでいる。わかったことは、二人に相談はできないという事だ。そう考えているのがバレたのか、遊作は少し俯いて「すまない、話くらいならいつでも聞けるが」と申し訳なさそうにしていた。
「だ、そうだ、尊。どうする?」
どうするもこうするもない。遊作の言う通り、まずは話しかけるところから、だ。
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20190429:リクエストありがとうございました!前日譚的なものです。