10000hitありがとうございます!/ジェノス


ケーキが美味しい。
それだけが真理だ。

「……」

ちらり、とサイボーグの方を見てみるが、ひとり優雅にコーヒーをすすっている。
ゆっくりしていけ、と店員さんに言われたが、どのくらいゆっくりしていけばいいのか。
ケーキは食べ終わっている。
本当に美味しかった。
コーヒーもいい。
けれど、今はそんなことが問題ではなくて、私の味方はどうやらこの店に1人もいないということだ。
こいつめ一体何をした。
顔がいいとはつまりそういうことなのか? その顔を人心掌握に使ったのか?
そんなことすら簡単に出来てしまうのだろうか。
いっそ腹立たしい。
しかも無言なのがどうにもならない。
私から話すようなことはもちろんないし、このサイタマさんバカが私に興味があるとも思えない。
もしかして、このサイボーグが人心掌握術に長けているのではなく、私が無意識のうちに恨みでも買っていたのだろうか。
ここには良く来る、粗相はしていないはずだけれど、なにかダメだったのだろうか。
そんな被害妄想まで頭の中を駆け巡り始めた頃、ようやく、サイボーグが口を開いた。

「うまかったか」
「…………なにが?」
「何故そういう返しになる。ケーキにきまっているだろう」

……。
いちいちむかついていられない。

「そりゃーもう、君も頼んだら?」
「俺はいい」
「そう」

あーーー。
お互いに話を広げる努力をしなさすぎる。
いや、私が努力をする必要が一体どこに?
胸のあたりがむかむかしてくる。
あまり体に良くない時間を過ごしている。
早く帰るべきだと思う。
どうしたらいいんだ。
私は。
流石に目の前にいるのに盛大にため息をつくのもいやらしいかと、気づかれないようにゆっくり息を吐く。
コーヒーのいい匂い。
いつもはたまらなく落ち着くけれど。
なんだ、今日のこの地獄めいた感じは。

「なまえ」
「ん?」
「そんなに」
「うん?」
「そんなに俺が嫌なのか」
「? 君だって嫌でしょう」
「何故そうなる」
「なぜなぜって言うけど、先に君の意図の方教えてくれたらいいんじゃないのかな、割と人に迷惑かけないように生きてると思うんだけどね」
「……俺のことはいい」
「じゃあ私のこともいいのでは?」
「そうじゃない」
「いやその、だからね、つまりさ、この時間って、君にとって、なに?」
「……」

なぜ黙る。
店員さんもちらちらこちらを見るんじゃない。
……あ。
そうか。
この店とサイボーグはなにやら通じあっているようだし。
ざっと周りを見る、うん、そこそこ暇そうだ。

「すいません」

私は立ち上がって先ほどのポニーテイルの店員さんのところへ行く。

「は、はい! ご注文ですか?」
「いやちょっと雑談を」
「え?」
「今私って、あれとなにしてるの?」
「ええ!?」
「あれはなにがしたいか、お姉さんわかりませんか?」
「いや、それは、たぶん、」

こそり、と耳打ちする。

「貴方と話がしたいんだと思いますケド」

はあ。
そういう意見もあるのか。
……。
席に戻ると、じっとサイボーグを見る。
そういう意見もあるか??
ありえるのか、それは。
話をしたそうな雰囲気か? これが???

「ねえ」
「なんだ」
「君って、私となにか話したいんですか?」
「違う」

ほら違うじゃないか。
なんだこれは。
戻って「違うらしいですけど」と言いに行こうか。また新しい発想が得られるかも知れない。
私があからさまに困っていると、目の前に座るサイボーグは今にも死にそうな声で言った。

「」
「ん? なんて?」
「さっき、3.18秒前に、」
「うん」
「嘘だと言ったが」
「うん」
「…………」
「…………」
「………………」
「……………………はい、なんでしょうか」
「あれは嘘だ」

そんなにためることか?
はあ、という気の抜けた返事しか出てこない。
嘘ではない、つまり話がしたいというわけか。
確かに友達は少なそうだ。
サイタマさんを知っている友達となると更に。
サイタマさんがいかに尊いかという話がしたいのだろうか。正直お断りだが。

「……」

この弟子はどうしてこうも必死なのか。
まあいい。
友達になった覚えはないが同年代のよしみでサイタマさん談義くらいには付き合おう。

「わかった、それなら、何の話をする?」
「……お前と話すことなどない」
「どっちだよ! 二重人格者か!? もういい加減にしないとほんとに帰らせていただきますが……」
「待て」
「次わけわかんないこと言ったら帰る」
「………」
「………」
「………」
「………いや黙るんかい! それはそれでわけわからんわ」

無限ループって怖くね?
そんな言葉が脳裏を過ぎり、サイボーグはこの後ずっと黙っていたので、ぴったり一時間が過ぎた時に、店員さんにもういいですよね? と圧力をかけた後帰路についた。
しばらく店で勉強をするのはやめよう。
あるいは、ほかの場所を探すことにしよう。
こんなにイライラしたのは人生で初めてかもしれない。
最後の方なんか別人格出てたぞ……。
苛立ちは人を殺すなあ……。
結局のところ何もわからない1日であった。
私はと言えば損しかしていない。
そんなところまで考えて、今日もこの件について考えるのはやめるのだった。


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20160415:以下コメント返信
匿名さま→
リクエストありがとうございました!
話になっていない弟子は相変わらず話になっていません。
私はとても楽しく書かせていただきましたが、みなさまにも楽しんでいただけていたら幸いです。
あまりにも進展がない話になりましたが、ジェノスはこれはこれで割と頑張っているのだと思います。
ヒロインの方はあんなですので、この先このことはジェノスにかかっていると言っても過言ではありません。
拍手コメント、リクエストありがとうございました!
よろしければまた遊びにいらしてください。

 

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