はじめまして強いひと三話目


なまえは、遊作と草薙の知り合いだったらしい。再会は嬉しかったはずなのに、その事実にはどうしてか落ち込む。なんでかなあ。取り戻した身体をひねってみてもわからないまま。
当のなまえは、草薙が買い物に行っている間の店番を任されている。遊作よりも手際がいいから慣れていることがよくわかる。
と言うか、(おそらく)店長である草薙が店に立っているときよりも人間が集まってきている気がしてならない。いや、絶対そうだ。

「……」

このなまえは、あの時LINKVRAINSで俺を助けてくれたなまえに間違いない。姿形がほとんど変わらないからわかりやすい。だが。俺はまた分からなくなって唸ってしまう。テキパキとした、店員としてのなまえと、あの時のなまえとは別人のようだ。
俺は、何を聞くべきか一生懸命考えてから、客が途切れたのを見計らって聞いてみる。

「なあ、なまえ」
「んー?」

どこか気の抜けた返事を聞いてやけに安心した。なんで、と間髪入れずに俺が俺に尋ねてくるけど俺は今それどころじゃないから俺の声すら聞こえなかったことにして進める。

「なんか、違くないか?」
「え? 間違った日本語使ってた?」
「いや、それは気になんなかったけど。えーっと、だから、そうじゃなくて」
「うん」
「草薙とか遊作とか、俺とかと喋る時となんか違くない?」
「それはまあ、お客さんにも友達みたいに接するわけにはいかないよね」
「フーン……、大変なんだな人間って」
「ははは、多分だけどね。イグニス程じゃないよ」
「えっ、どういうこと?」
「いろいろあるけど、たぶん人間の方が簡単かな」
「そうなの? なまえがわざわざホットドッグ屋の顔と、友達にする顔と、デュエルする時の顔使い分けてることより?」
「たぶん」

完全に客足が途絶えたから、なまえもソーセージを焼いていた手を止めて俺を見た。客に向ける笑顔ばかり隣で見ていたけれど、今俺を見下ろしている顔は、正確には、なんなのだろう。
友達、となまえは言ったが、どうしてか、友達、ではない何かがいいと考えている自分がいる。ならばなにならいいのか。俺はとうとう俺の思考能力の限界を感じでデュエルディスクの上に寝転んだ。
考えるとか考えないとか、計算するとかしないとか、人間とかAIとか。俺一人で抱えるには大きすぎる課題であるように思えた。
追い打ちをかけるように、きっと人間よりAIの方が大変、などと言われて、こんなにわからないことはない。

「やっぱり、人間はわかんねーや」
「大丈夫。人間も人間がわからないから」
「ええ……? なんか……、嫌になるな、それ」

なまえはきょとんと俺を見下ろして、そのあと直ぐに「ははは」と声を上げて笑っていた。通行人がびっくりしていたが、なまえが気にしている様子はない。
こういうところ、人間らしくないと思う。俺が身体を起こすと、なまえは笑いながら続ける。

「そうなんだよ。ほんと、嫌になるね!」

なまえが、あの時あの場所でぼうっとしていた理由がわかった気がした。ただ、言葉にするには難解で、結局俺は観察するみたいになまえを見上げることしか出来なかった。


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20181204:さとみさん…3話目じゃないですかこれ…。リクエストありがとうございます。3話目はじゃあ、こんな感じでどうですか…。

 

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