20170703/ステイン


時々、体が上手く動かなくなる。
高名な医師の先生曰く、原因は個性の酷使。
つまるところ、個性を使わせないように、体が全力で私を止めに来ているという訳だ。文字通り命を削るやり方を続けていて、これからも続けていくつもりだったのに。
これまた今日の発作はあまりに酷くて、指も満足に動かせない。
病院の個室で夜中に目を覚ますと、額からつうと冷や汗が落ちた。

「ハァ……」

深い吐息がすぐ側から聞こえてくる。首も動かないから仕方がない。私は目を閉じたままで少しだけ笑う。立っている人間は医者じゃないし、こんな夜中にここにいる時点で不法侵入なのだけれど心配はない。言葉だけは伝えられる。今はそれだけで充分だ。

「ごめんね」
「なにに謝っている?」
「まあいろいろ。目も合わせられないこととか、ちょっとしたおもてなしもできないこととか」
「ハァ……俺がそんなものをお前に期待していると思うのか……?」
「できたらいい、くらいはね」
「……今は、出来ないだけだろう。お前が何を出来て何ができないかなど、俺が一番よく知っている」

少し私は黙り込んで「ありがとう」とだけ言った。

「それに、目を合わせるくらい簡単だろう」

きし、とベッドが甘く沈んだのを合図に、私はゆっくり目を開ける。世間じゃヒーロー殺しなんて呼ばれる彼とは、どうあがいても真っ当な面会をするのは難しい。
鋭いような、熱いような視線とぶつかった。その熱の中にはいろんな色が滲んでいて、少し怒っているようにも見える。不用意に謝ったことを、よく思っていないらしい。
息がぶつかるくらいに私の上に身を沈めた。私が呼吸を繰り返していることを確認して、私の吐息の流れに合わせて唇が触れる。
体を気遣うように数秒で離れて、に、とお互いに笑い合った。

「……どこか行くか」
「連れてってくれるの?」
「ああ、どこでもいい」

ただ、傍らに立っただけなのに、随分遠くへ行ってしまったみたいだった。
でも、微かに触れてもらえている。指先からの微弱な電流が、私にも繋がっているような、そんな気もする。

「……きっと行っても、歩けないけど」

そんな女を連れ歩いてもいいのか。そこまで言ったら、きっとこの人は今よりずっと怒るのだろう。
私の弱気を全てゆるっと吹き飛ばすみたいに「ハァ……」と、吐息。

「嫌か」

僅かに切なげな視線に、耐えきれなくて両手で目を覆う。

「とんでもない。行きたい、なあ」

手のひらで覆った瞼の下、眼球がいやに熱くて、目の奥がきらきら光っていた。


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20170813:塩あずき さま
企画に参加頂いてありがとうございました! ステインで付き合ってる設定で甘い、でした。それっぽくなっていたら嬉しいです……。
この度は本当にありがとうございました、また機会がございましたら遊びにいらしてください。最後にもう一度、ありがとうございました!!


 

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