20170703/ブルーノの話


頬を冷たく、涙が流れて目が覚めた。
いいやもしかしたら、なまえが起こしてくれたのかも。よく覚えていないけれど、ひどい夢を見た気がする。
テーブルの上に沈むように突っ伏して寝ていたらしい、でも、そんなに時間は経っていないようで関節が痛んだりはしない。頭をあげると、テーブルにパタリと涙が落ちた。
「うなされてたよ、大丈夫?」なんて夢一つで心配そうにこちらを覗き込むなまえ。いつもならばこの上なく落ち着くはずだけれど、きょうばかりは胸がざわざわしていて「大丈夫」と返すことが出来なかった。

「ひどい、夢を見た」

縋るようにそんなことを言ってしまった。
弱い男に見えるだろうなあと後悔するのに、なまえの声はあまりに優しい。

「どんな?」
「覚えてない。でも、君が出てきたと思う」

「……そうなの」つぶやく彼女が、どうなる夢だっただろうか。いいや、でも、幸せな夢だったような気もする。悲しくて、寂しいものであったような気もする。全くうまく思い出せないけれど、なまえと言う人はただいつも通りに笑って「私がいたのに泣かせちゃったか」と悔しがるような女の子だ。
首元では、(夢でも見た)指輪が二つ揺れている。
僕はそれを見ていると、どうにもやはり、心が大人しくしていてくれない。

「ねえ、なまえ」
「うん?」

頼みがある。お願いがある。今だけでもいい。僕を。
言葉になりかけた想いは、今ここにある現実が弾き飛ばした。僕にそんな資格はない。そんな関係でもない。一つ一つ確認する度、言葉はぱらぱらと散っていく。
結局何も言えないまま目を逸らすと、なまえは控えめに、だけど明るく優しく首をかしげた。

「どうかした?」

この気持ちは伝わらなくていい。伝えないのが正解だ。
なまえの明るさを少しもらって僕も笑う。多分笑えていたと思う。

「あー、いや、あはは、そんな深刻そうな顔しないで! ただ、すごく一人ぼっちな夢、だった気がするから、寂しいなーって、それだけだよ」

なまえはきょとんと言葉を失ってから、腕を組んで考え始める。

「うーーーん……そうかー……」

より深刻そうな表情でそのあたりをぐるぐると回ってみたり、天井を仰いでみたりしている。
それから僕に背を向けて、肩をがくりと落として、解かれたなまえの両腕は僅かに揺れる。溜息を吐いていたと思う。肩が上下したのを確認してしまった。
ああ、遂に、呆れられた、だろうか。

「君たちは揃いも揃って人を巻き込むの苦手だからね」

なまえは僕に背を向けたままそう言った。
君たち、と言うのはきっと。ああもしかしたら、なまえにとってこういう事は、はじめてではないのかもしれない。
振り向いたなまえの瞳は夢で見たよりずっと綺麗だ。
地面を転がるガラス玉よりずっと気高く、光をあつめてキラキラしている。

「しかたがないから、これを、持っていってもいいよ」

まるで手品みたいに素早く、なまえは胸元のネックレスを外してそのうちの一つを手のひらに、自分はネックレスをかけ直しながら、外したもう片方の指輪は僕の手のひらに。
彼女は何と言った? これを? 持っていってもいい??

「ええ!? でも、これって!!」
「ブルーノがあんまり辛そうで見てられないから、私を少しだけ分けてあげる」

「もう随分長くつけてるし、もうそれは、私みたいなものだから」となまえはなんてこと無さそうに笑っているが、この指輪のネックレス、親しくない人間と会う時には服の内側に隠しているのを知っている。
なまえにとって、命やデッキと同じくらいに大切なもののはず。それを。

「あげるよ。どこに行くことになっても、私をつれてってもいいよ」

なまえに触れてしまいたくなる。けれど両腕を必死に抑えて、代わりにもらった指輪を握りしめた。顔を上げて極力明るく、なまえのように笑いたかった。しかし声は震えてあまりに弱々しい。「ありがとう」でも弱いとか強いとかは今更だ。なまえはきっと全部わかっている。
だからそんなに簡単に、僕のできないことをしてしまう。

「特別だよ」

なまえだって、本当はこういう事が得意なわけじゃない。なまえだって、間違っても自分と一緒にいなくなってくれなんて言えないくせに。
それでも不器用に僕に腕を回して。
「私のことは大丈夫だ」なんて明るい声で言った。

(君と、ブラックホールの彼方へ)

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20170722:かなた さん!
お疲れ様ですあさりですこの度もありがとうございました! という訳でみんな大好きブルーノちゃんを書かせて頂きました。とりあえず勝手に前後編にして申し訳ないです。よかったら前編もどうぞ…。
過去をどれだけ遡ってもちゃんとブルーノちゃんを書いた記憶が見当たらないので、今回なんとかブルーノちゃんになってればいいかなと思います。
ブルーノちゃんは想像以上に可愛かった結果が前後編なので許して下さい。
それではありがとうございました!!

 

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