20170703/アンチノミー(ブルーノ)


これは夢だとすぐにわかった。
あまりにも都合が良くて、希望と欲望と、それから僕らの正義とが綯い交ぜになったひどく残酷で優しい夢だった。
僕はしばらくとても懐かしい歓声の中にいた。なるほどこれは僕がプロとしてデュエルをしていた時の記憶。はじめはぼんやりとその中を漂っていた。この時点では夢だと気付いていない。ただなんとなく、かつてたしかにそこにあった幸せの中に沈んでいた。

「お疲れ様、いいデュエルだったね」

Dホイールを停止させてヘルメットをとった僕に、声をかけてくる女の子がいた。その少女を見て、なんだか変だと思い始める。
首元で光るチェーンの先に、シンプルな指輪が二つかかっている。サイズが違うのは、それらが対となるそれぞれの主の指にはまっていたから。彼女はそれを出会った時からつけていて、「両親の形見」だからと教えてくれた。
なまえが、「ブルーノ」に、教えてくれたことだった。

「……」

タオルを差し出す、この時代に居ないはずの少女は首を傾げる。
「どうかした?」となまえは不安そうにしていて、僕は慌ててそれを受け取った。空気も風景も懐かしいのに、なまえからもたらされるものだけ真新しい。

「なまえ?」
「うん、はいこれも飲んで」
「ああ、ありがとう。でも、そうじゃなくて」

もうこれは夢だとわかっている。
きっと起きた時にはすべて忘れている。
僕は飲み物を差し出すなまえの腕を掴む。
微かな振動は首元の指輪にも伝わって、小さく金属の擦れる音が聞こえた。
なまえは目を丸くしてこちらを見上げたけれど、すぐに楽しそうに笑ってみせる。こんな場所でもなまえの笑顔は変わらない。
例えばこの世界に終わりが近づいたとしても、彼女だけは笑っているのだろう。
強く目を閉じると、歓声は消えてしまった。
他の人の影もない。

「なまえ、頼みがあるんだ」

夢が覚めたら、きっと言えない。
なまえはその強さの象徴のような笑顔を惜しみなくこちらに向けて。
消えてしまいそうな儚さで、「なに?」なんて優しく言う。
頼みがある。

「ーーー」

僕と、一緒にいて欲しい。
もし、僕があの世界からいなくなる時があったなら、僕と一緒に。

「大丈夫? 今日ちょっと調子悪い?」

思いは、声にはならなかった。
夢だからといって、気持ちは言葉にしなければ伝わらない。
ああ、結局僕は、夢でだって、君を巻き添えにすることなんか出来ない。だって僕がそんなことを言えば、君は「いいよ」なんて笑って言うんだろうから。
僕もどうにか微笑んで、なまえの肩を軽く押した。
とん、となまえが遠ざかる。

「ここは、君がいるべき場所じゃない」


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20170709:鈴波セイハ さん!
ありがとうございます!! 後編に続きます!!!! 勝手に前後編にしてすいません!!!
ともあれ今回はリクエストありがとうございました。はじめまして、あさりと申します。
デニスくんまで読んでいただけてたとは…ありがたいです…デニスくん大好きなんですがあんまり同志の方お見かけしないのでせっせとデニスくん書かせてもらってました…デニスくんを褒めていただいて本当にありがとうございます(?)
(小鳥ちゃんとベクターの恋バナのシーンは私も好きです…本当にもうありがとうございました…)
と、そんなわけでブルーノ(アンチノミー)の話を書かせて頂きました。ブルーノ(アンチノミー)になっていれば幸いです。ついでに面白いといいなと思います…。
おかげさまで本当に良い一日になりました。
勝手に前後編になってますので良かったらまた後編も読みにいらして下さい…本当にありがとうございました!!

 

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