20170703/忍殺語を使ってSS


起きているのは一部の人間のみ、暗く静かなウシミツ・アワー。草木が眠っていようとも、我々人間は活動していて、しかもそれは一人ではないのである。
たった今休憩室から戻ってきた一人の男は、日本の輝かしき食文化、スシを補給してきたところだ。ただしそのスシは賞味期限が過ぎていた。
それでも、戻ってきた男、吉岡の胃袋は実際鋼のようであった。

「ドーモ、藤本=サン。休憩ありがとうございました」
「ドーモ、吉岡=サン。時間は二時を回ったけど朝まで持ちそうか?」
「当然ですよ。もうこのバイトを始めて何ヶ月だと思ってるんです?」
「半年は経つかな? もうベテランじゃないか」
「何を言うんです、藤本=サン。僕はあなたの至高の技、立って目を開けたまま眠るジツがいつまで経っても習得できそうにありません。ニンジャも裸足で逃げ出すワザマエです」
「そうかあ。俺はもしかしたら、ニンジャソウルを秘めているのかもしれない」
「妻子を殺されて発現するんですか。そもそも妻子ができなければ発現しませんけど大丈夫ですか?」
「グワーーッ!! なんてことを言うんだ!! そんなことを言う君には天罰が下るぞ! インガオホー!」 
「アイエエエ……そんなに怒らないでくださいよ……」

四角い白い箱の中。
24時間も営業している悪の文化。
コンビニよりも便利なものが生まれることを祈るしかない。でなければここは潰れない。予期せぬ隕石の落下(犠牲は店のみ)も圧倒的に歓迎する。
繰り返されるアナウンスは狂気めいている。
何度も聞くが覚える気がないせいで一切記憶していない。どんな狂気も意識されなければ全く無意味。
人通りはないが、車の音は時折聞こえる。
我々はまったく暇であった。
私は吉岡を見る。
その眠気を隠しもせずに大きく口を開けて体に酸素を取り入れていた。あまりに間抜けな顔に少し笑うと吉岡はギロリと睨んできた。コワイ!
なにはともあれ、フートンが恋しいのは見ればわかる。
そのまま我々は外が白むまでいつも通りに平和に勤務していた。時給1000円で人間らしい生活を捨てて、そうして得るものは一体何か。
いつもなんとなく終わっていくこの時間だが、今日は少しばかり違った。
明け方、一人の客が来た。

「いらっしゃいませ……、!?」

カワイイ! ヤッター! と思わずにはいられなかった。
朝帰りの、つまりは夜の仕事の、広く言えば我々の同士である。彼女は我々より一足はやく帰宅するようだ。
ネオンのようにギラついた赤いドレスは、朝日の柔らかさで少し落ち着いている。我々はここに存在意義を見出した。
そのバストは豊満であった。

「ありがとうございました」

我々が客のすべてにかける言葉だが、その時ばかりは少し特別な色が込められていた。彼女はなんとそれに気付いて。

「お疲れ様」

とこちらを労った。なんなら友情すらも感じる。理不尽なクレーマーは死すべし。
そして戦友は一足先に帰って行った。
彼女が体を壊さずに達者でいることをただただ祈る。

「十分だと思わないか」
「そうですね、藤本=サン」

これが正義だ。
我々はあの美女とこの苦しみを分かちあった。
何が得るもの。なにが存在理由。下らなくてヘソで茶が湧いてしまう。
ああ、今日はなんて、いい日だろう。
美女のためなら我々は命をかけなければならない。
古事記にもそう書いてある。


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20170708:ライカ さん!
このやろう! なんてことをしやがった!! 面白かったらいいなと思います!! ありがとうございました!!

 

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