20170703/災藤


なんだかんだにぎやかな特務室が、静まり返る深夜。
みんなの活動時間はとっくにすぎて、けれど朝にもまだ遠い。
体に水分でも入れたら落ち着くだろうかと食堂に向かった。

「おや、なまえ。夜更かしはよくないよ」

声をかけられてびくりと震える。
驚いたが、声は優しく、知ったもの。
災藤は今ここへ帰ってきたのか、それともまだ仕事をしていたのか、制服のまま立っていた。

「あ、はは。すいません。災藤さん。ちょっと寝付けなくて」
「まあ、そんな夜もあるだろうけれど。それなら少しそこで待っておいで。いいものを持ってきてあげよう」
「え、でも、災藤さんは仕事なんじゃ」
「構わないよ。私もちょうど飲み物を取りに行くところでね」

いいから座っていなさい、と災藤は食堂の椅子を一つ引いた。
なまえはおとなしく頭を下げて、それからその椅子で何度か深呼吸をする。
真夜中に目が覚めてしまって、心がどうにも落ち着かず、諦めて飲み物を取りに来たら災藤に迷惑をかける形になってしまった。どうにも申し訳なくて、悲しいやら、災藤に気を遣われて嬉しいやら、複雑だ。
食堂の奥から音がする。足音と食器の音と。
そのうち足音が近づいてきて、ことり、とマグカップはなまえの正面に置かれた。
ふわりと、夜闇を忘れる甘くて優しい香りがする。

「ホットミルクですか」
「ふふ、少しだけハチミツも入れてあげたよ」
「ありがとうございます……、すいません、わざわざ……」
「構わない、と言っただろう?」

「今日はとても暑かったね」と災藤が世間話を始めるので、なまえはそれ以上謝ったりするのをやめた。
今度なにか差し入れでもしようかと考えながら災藤とした雑談は、一杯のホットミルクと合わせて、なまえの心を落ち着かせるのに十分であった。
空になったマグカップを数秒見つめて、この時間が終わってしまうことが惜しいような気持ちに気付かないふりをした。なまえは立ち上がって、軽く災藤に頭を下げる。「ありがとうございます、おかげでちゃんと眠れそうです」なまえは顔を上げて笑って見せた。

「それなら、よかった」

災藤も微笑んで立ち上がる。
そこからは、まるでもう何年も繰り返した決まり事みたいな動きだった。
実際そうされるのははじめてであるとなまえは記憶しているし、災藤も毎日だれかにそれをする、ということもないのだけれど、あまりにも自然な動きだったため、そこに言葉が挟まる余地が見当たらなかった。

「なまえ」

ほとんど距離がない。
直接脳内に優しく響く声に、呼吸さえも止まりそうになる。
なんとか荒く息を吸い込むが、ぴったりと抱き寄せられているせいで、災藤の香りを大きく体に取り込んでしまった。今度はくらくらと視界がぼやける。なんでどうして、そんな疑問が浮かぶ端から言葉になるよりずっと早く、燃え尽きてしまう。
ただ視界がぼんやりとしているのは幸いだ。
事態を正確に把握できていたら、きっと今夜は眠ることを本格的に諦めなくてはいけなくなる。
ようやくどうにか「災藤さん」と自分を抱きしめている人の名前を呼べそうだったのだけれど、ついに呼吸も止められる。

「おやすみ」

唇に触れて数秒間、気付いたらベッドで眠っていて、カーテンの隙間から差し込む朝日でようやくーー。


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20170708:ロウさん!
リクエスト企画皆勤賞!!!! ありがとうございます!! お世話になってます!!!
誕生日を祝っていただいてありがとうございました!! これからも!! なにとぞ!! よろしくお願いします!!
なにやらすごいうるさいですがどうかお気になさらず……いつかきっとご一緒に美味しいものでも食べましょう……。

 

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