20170703/△不動遊星


雨の上がる気配がした。
打ち降ろされていた湿気が広がって、夏の暑さに混ざり込む。今日はきっと見られないと諦めていた夕日が射し込む。いつもよりずっと綺麗に見えて、その感動の中では肌に張り付く不快感を忘れることが出来た。
遊星は吸い寄せられるように窓の方へ。

「……どうした? 遊星」

近くに居たクロウも傍に寄って、遊星が見ているものをちらりと見た。湿気に滲んだ赤色で染まる。夕日はほとんど毎日目にして、いちいち綺麗だと思ったり思わなかったりするけれど、今日のは特別印象的な赤色だった。
遊星が黙って外を見ている理由をなんとなく理解した。クロウもまた半分口を開いて湿った暑さを忘れて眺める。
一段と色の強いところには太陽が居て、さあ流れゆく時間を惜しめとばかりにゆらめいている。

「クロウ」

遊星は、クロウの方を見ずに呼ぶ。

「ん?」

クロウもまた、遊星の方を確認せずに返事をした。

「皆はこの景色を見ているだろうか」
「どうだかなあ。ジャックの奴は見てるだろ、あんまり考えたくねーけど、高いコーヒー飲みながら」
「アキや、龍亞と龍可はもう家に帰った頃か。雨に濡れていないといいが」
「龍亞はともかく、他の二人は通り雨なんかに出し抜かれたりしねーさ」
「ふ、それもそうか」
「鬼柳の街は、タダでさえ赤い夕日が余計に赤色だろうな」
「ああ。ん、確かブルーノは……まだ寝ていたか……」
「起こして来るか?」
「いや、きっとまた、いつか見られる。休ませておこう」

遊星は言う。

「綺麗だな」
「ああ、そうだな」

クロウは、遊星に調子を合わせて笑っていた。同じ景色に目をとめて、他愛のない話に笑顔で付き合ってくれる。きっとこれは、クロウだからではない。他の誰であっても、間違っても「下らない」と一蹴することはないのである。
会ってきた人々や近しい人たちを思い出すと、この夕日の中で笑っている。
少しずつ、夏の暑さを思い出す。
じわりと滲む汗を感じながら目を閉じる。
どうか、彼ら彼女らが、笑顔でありますように。


--------------------
20170706:真夏さん!
ありがとうございました! 遊星君といえばこう……クロウくんと並んでいたのが大変可愛かったような気がしています……綺麗なもの美味しいものをみると真っ先に仲間の顔が浮かぶみたいな……。ちゃんと書こうと思うとごっず見直したくなってくるのでなんともならないんですが……。
とにもかくにもこの度はありがとうございました! 真夏先生の御誕生日も是非祝わせて下さい!


 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -