超感謝1周年!/ソニック


女がいる。
名前はなまえ。
覚える気があった訳では無いがすっかり覚えてしまった。
なまえはある日突然「貴方は私の恩人だ」などと言いながら現れて、気づいた時には近くにいる。修行中であったり買い物中であったり、夜であったり昼であったり。とにかく奴は気付くとそこにいるのであった。
奴の恐ろしいところは、そのまとわりつき方が極めて計算されているところだ。実際俺は、この女のことを便利な奴だと認識している。付き纏われれば鬱陶しくて殺してしまってもおかしくはないのだけれど、一度も殺そうと思ったことがない。
無駄なことは聞かないし喋らないしべたべたくっついて来たりもしない。
こいつはなにがしたいのか。
恩人と言うだけで何故こうもまとわりつくのか。
ちなみに、奴の答えはこうであった。

「恩人である、と言ったのは間違いではありませんけれど、どちらかと言うと、純粋に尊敬とか好意です。ソニックさんて、かっこいい上すごいじゃないですか」

恩人であることはどうでもいいらしい。俺にとってもどうでもいい。俺はこの女に恩を売った覚えがない。
ただ、柔らかいタオルだとか、冷たい飲み物、そんなものがタイミング良く出てきたりすることについては、修行の効率も上がって悪くは無い。むしろ良い。いや、良い、などと言うとあいつは幸せそうに笑ったりしそうだ。そんなところを、なんとなく、見てはいけないような気がして黙っている。
あいつはなにを得ているのだろうか。
俺には真似出来ない献身の先にあるものは何か。
なんとなしに、提案してみたことがある。

「死んだらどうだ」

世間話でもするかのような抜き打ちテストに、なまえはきょとんと数秒黙って。

「貴方に殺されるなら、それは仕方がない。喜んで。でもそうでないのなら、死んでしまっては貴方を見ていられないかも知れません。それは困ります。役に立てるように尽力することが最近の楽しみなのです。ああでも、そうですね、死んだ方が今より貴方をよく見られて、お力にもなれるというのなら、うん、死にましょう」

と笑った。なるほどこの女は頭のネジが数本ないようだ。一体どこに落としてきたのか。可哀想なことである。
まるで、俺のために生きているような口ぶりだった。自分の生を俺に押し付けるな面倒臭い、死ぬか? といつもならば言っている。言わなかったし思わなかったのは、こいつのような弱い女はまあ得てしてそうして生きるものだろうと納得したからである。気分がよかったからではない。
なまえのことはわからない。
ただ俺の周りをふらついては、殺しても死にそうにない顔をして楽しそうにしている。
今日は何やら弁当を持ってきたらしい。
なんとも情けないことに、前回、「お前は食い物の差し入れはしないんだな」と口を滑らせたことにより「え、いいんですか。お弁当とか、作ってきても? 気持ち悪くないの?」となったのである。
気持ち悪くないの、とは今更である。
今更過ぎて盛大に笑ってしまった。
この女馬鹿だぞ。

「そのバカが作ってきた弁当がこちらになります」
「そうか」
「また持ってきても良いですか」
「ああ」
「!」
「だが」
「?」
「多すぎる」

訂正しよう、この女は限度を知らない馬鹿であると。
たった一人でこの重箱はどうあっても無理だ。「分身とか」と苦しいことを言うこいつは大概しつこいヤツであった。しつこさは出会った時から承知であるが、さっさと多すぎることを認めて次からは量を減らしてきたら良いのである。
どの言葉に反応したのか体を震わせて嬉しそうに笑っている。俺の言葉が意図通りに届いているか大変怪しい。

「なにを笑っている。量の話はちゃんと聞いていたか?」
「もちろん。次からは気を付けます」

ああ本当に、俺の為に、あるいは、俺の近くに来る為になにかしたくて堪らないらしい。
何故とかどうしてとか、何かを得たいとかそんなことよりもただ、動かずにはいられないという様子だ。なまえの作ったものは思いのほか美味くて、差し入れがある日はどこか体も動かしやすかった。

「なんだその阿呆面は」
「すいません、ちょっと予想外すぎて。えっと、私は何をしたらいいですか?」
「ハハハハハ! 悩め悩め!」

たまには何を考えているのかいまいち読み切れない無表情が間抜けにまん丸になるところを見るのも良いものだ。
いつも距離を図って言葉を考えて、それが今だけ出来なくなっている。なまえの家に押しかけてやるとわかりやすく慌てている。ははは。愉快愉快。
しかしそれならばとお茶を用意したり菓子を出したりと、思ったよりもきちんとした備蓄が家にあるらしかった。
なまえはどうにか落ち着いて、ちらりとこちらを伺っている。

「なんだ?」
「いや、どうしたんですか?」
「お前もいつも唐突に俺のそばに居るだろう」
「そうですけど……いえ、まあ、つまらないところで申し訳ありませんが、ゆっくりして行ってください」
「ふん、そうだな。思ったよりも、面白いものはなさそうだ」

めぼしいものは置いていない。
インテリアにしても普通。
カーテンの色も普通。
テレビの前に置かれている置物の黒い猫の、水色の目がこちらを見ている。育てているらしい花は濃い紫色に咲いている。何気なく置かれているマニキュアの色はどこかで見たような……。
この家、ポスターを貼ったりだとか隠し撮り写真が飾られているということは無いが、もしや相当に。
俺は前触れもなく笑い出してなまえを驚かせた後に言う。

「お前は本当に、俺が好きだな」
「!」

なまえはきょとんとこちらを見上げて、上機嫌な俺と目を合わせた。
程なくして、なまえも笑う。

「はい」

わかってもらえているだけで、十分なのです、とただ幸せそうにするのであった。


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20170503:嫉妬好き さま!
はじめまして、管理人のあさりです!
リクエストありがとうございます! 夢主にしつこく好かれるソニックちゃん(?)を書かせて頂きました。しつこく好かれているつもりです。しつこく好きなんです……。
これにて、この企画は終了なのですがこれからはまた普通にいろいろと書いていきたいなと思っていますのでよろしくお願い致します!
大変お待たせしてしまいましたが、如何でしたでしょうか。
何卒、また機会がありましたらご参加お願い致します! それでは、失礼致します! 本当に、この度はありがとうございました!!!

 

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