超感謝1周年!/バクラ


十二月の二十四日の夕方過ぎ、元々雪のせいで薄暗かったが、日が沈めばぼんやりと雪が浮かび上がるのみの夜。
頭に肩に雪を積もらせて、バクラは激昂しながらやって来た。

「ふざけんな!」

寒すぎるだろうが! と全身を震わせて、遠慮なしになまえの頬で指先を温めていた。
なまえはきょとんと見上げたまま、体に積もった雪を払ってやった。白い髪に積もった雪を払う時など特に楽しい。「何笑ってやがんだ」と少し熱の戻った指先で頬を抓られた。

「耳あてとか帽子とか、もっと暖かそうなコートとかなかった?」
「うるせえな。宿主の持ってるもんは趣味とイメージが合わねえんだよ。オシャレは我慢だろうが」
「んん、まあ…とにかく上がって…」
「おう」

濡れたコートは受け取り、まだ少し濡れている髪を拭くようにとタオルを渡す。そしてバクラは真っ先にコタツへ潜り込んだ。趣味がイメージがと言っていたが、これは良いのか。なまえは一瞬考えるが、とりあえずはと預かったコートをハンガーにかけて干しておく。
コタツで丸くなるバクラのそばに、暖かい飲み物を置くと「相変わらず気が利く女だぜ」と嬉しそうにしていた。
なまえも同じようにコタツに入ってコーヒーを飲んでいると、バクラがじっとこっちを見ていることに気付く。

「どうかした? なにかいる?」
「いや……」
「?」
「こんなわかりやすい日に来てやったってのに、わかんねーのか?」

なまえは再び首を傾げる。
しばらくナナメになりがらバクラを見上げていたが、数秒思考した後に「そうか」と呑気に手を叩いた。
コタツから出て立ち上がる。

「ちょっと待ってね」

なまえはさっと身支度を整える。暖かそうなコートに耳あてに手袋にマフラーを装備。程なく玄関の扉が開く音がして、閉まる音がした。

「は?」

明らかに外に出て行った。この雪の中。暗い中を、一人で。一体何故。なまえには、バクラがなにを要求したように見えていたのか。どこへ何をしに行ったのか。ちょっと待つ、のちょっととはどの程度か。
追いかけるべきだろうか、余計な謎かけをして悪かったと連れ戻すべきだろうか。
ぐるりぐるりと考えを巡らせている間に、なまえはひょこりと帰宅する。
音が近付いてきた為バクラもコタツから出て玄関前で待つ。
バクラほど寒そうではないが、肩に頭に雪を積もらせている。

「傘をさせよ」
「バクラが言う……?」
「オレ様はいい」
「私は駄目かあ……」
「たりめーだ。転んだらどうする」

なまえは愉快そうに笑う。ぱらぱらと積もった白が玄関に落ちる。
今度はバクラがなまえについた雪を払ってやって、それからなまえの頭にタオルが投げつけられ、もう一度コタツに引きずり込まれた。なまえの手には、コンビニの袋が握られている。

「どうぞ」

などと自信満々に笑うなまえが袋から取り出したのは二つのショートケーキだった。

「久しぶりすぎて用意なかったから。コンビニの力に依存した形だけど」
「オレ様がここに来た理由は、ケーキが食いたかったからだと思うのか?」
「うーん」

なまえは唸りながらケーキの包装を剥いでいく。
バクラもそれに倣う。しかし世間は大層浮き足立っていると言うのに、なんとも貧相な話である。

「実の所よくわからないかなあ、折角だからケーキが食べたいなって。あと、今日は朝から雪が降ってたから、外に散歩にでも出ようかと考えたんだけれど、用事がなくちゃいまいち踏み切れなくて。外に出る理由が欲しかったし」

だから丁度よかった。となまえは笑った。

「ごめんね、それで、本当はなんだった?」
「……」

能天気にいちごを食らうなまえは幸せそうだった。
本当はなんであったか、なんて、すっかり忘れてしまった。望んだ展開も、欲しかったものもあったはずだが、なまえにいちごを分け与えてやったなら、全てを得られる気がしていた。

「おら、ありがたく食え」

プラスチックのフォークでいちごを突き刺して、なまえの方に近付けた。

「ありがとう。でもそうか。やっぱりケーキじゃなかったんだね」
「あー?」

バクラはぐい、となまえの唇にいちごを押し付ける。なまえは少し食べづらそうにそれを攫って、やはり幸せそうに笑っていた。

「正解に決まってんだろ。こいつがなくてなにがクリスマスだ」

だからバクラも楽しげに笑う。

「それならよかった」

ただ平和なだけの、クリスマスの夜は更けていく。


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20170501:みゆさま!
この度はリクエストをありがとうございました!
バクラでクリスマスネタでした!! 寒い日にバクラがこんなん言ったらかわいい、という思いつき8割という感じなのですが楽しんでいただけていましたら幸いです!
それでは、企画にご参加頂き本当にありがとうございました! よろしければまた思い出した時にでも遊びに来ていただければと思います! ありがとうございました!

 

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