超感謝1周年!/田噛


なまえが何を思ったかはわからない。

「かわいく、なりたいなあ」

夕飯を待ちながら何を言い出すかと思えばそんなことであった。「なまえはかわいいよ」なんて平気な顔で言うのが佐疫、木舌あたり。それに頷く抹本。何を言いだしたか分からず首をかしげているのが斬島と谷裂と平腹。俺はと言えば机に突っ伏していた。半分眠っていた頭は、一気に覚醒へと向かう。
なまえはおそらく曖昧に笑って、その場に一つ疑問を落として、もう一度呟いた。

「かわいく、なりたい」

切実そうにそう言って、その後すぐにキリカさんが夕飯を運んで来た。その話はそこだけで、この話題はそう気軽に掘り返せるようなものでもなかった。
全員が、『何故、かわいくなりたいのか』を聞けないまま、数日。
好機は、俺に巡ってくる。

「……」
「……あの、田噛? その、大丈夫? いや、大丈夫っていうか。ごめんね? 大して面白くないよね?」
「いや」

とは言え、ストレートに『かわいくなりたい理由』を聞くことは出来ずに、なまえの個人的な買い物に同行することにより理由を探ることにした。
買い物に行くというなまえに、「俺もいいか」と言った時、なまえは「長くなるよ?」と釘を刺したくせに、俺があまりにも黙々と後ろをついてまわるものだからとうとう気になりだしたようだ。
面白いか面白くないかでいえば面白くはないのだが、二人だけで店をふらふらとするのはまるで恋人のようで悪くないと思えた。他の奴らもさぞ羨ましがることだろう。後で存分に悔しがらせてやるとして。

「気にするなよ」
「……そう? なにか目当てがあるならそれ先に済ませる……?」
「いや、いい」

なにせ目当てはなまえである。
今日一日で随分なまえの好みを把握した。欲しそうにしていたものも覚えたし、これだけでも大いに収穫はあった。
俺は満足だが、なまえはやはりただ居心地が悪そうにこちらを見上げていた。

「飽きたら、先に帰っていいからね……?」
「おー」

なまえの言葉に頷くが、なまえはどうにも俺の存在が気にかかるらしい。時折チラチラとこちらを振り返る。それもまた気分が良いのであるが、肝心の買い物に集中出来ておらず、今日はまだ何も買えていない。
しばらくなまえを観察していたが、とうとうくるりと振り返った。
なまえもいろいろと思うところはあるのだろうが、それでもそっと、にこりと笑った。諦めたような微笑であった。

「ごめん、付き合ってもらって悪いけど」

そう思っているのはなまえだけで、田噛はただ、好んでなまえと居ただけだ。

「また今度、日を改めて悩むよ」

それはつまり、このデート(のようなもの)の終わりを告げる言葉だった。

「だから、ありがとう。帰ろうか」

俺は勝手に、なまえのことを知って得るものを得た気持ちで居たけれど、なまえはと言えば俺に気をつかって始終自分の買い物に集中出来ていない様子だった。さすがにずきりと胸が痛む。罪悪感に背を押される形で、なまえの無防備に細い手をつかむ。
そのまま引いて歩き出す。
もちろん帰るためではない。
今日のなまえはずっと困惑している。
そんな気配を背中に感じながらも、不安そうに見上げてくるなまえを見てしまったら、「悪い」なんて言って手を離してしまいそうだったから、振り返らなかった。

「あ、」

ある場所で足を止めると、なまえはそう声を上げた。
この店は、なまえが一瞬俺が居ることを忘れて、熱中していろいろと見ていた店だった。
何を思ったか結局何も買わずに店を出て、だからまあこれは、俺の些細な罪滅ぼしだ。なまえにして見れば、俺はずっとやりづらい同行者だっただろう。
が、今回俺が得た情報と、俺の好みとを掛け合わせて、何着か服をとってなまえに渡す。そして服を抱えたなまえを店員に引き渡す。

「ご試着ですか?」
「ああ」
「あの、田噛?」
「気に入らなかったら別に買う必要はねえよ」
「え、いや、そうでなく……」
「こちらへどうぞ」

こちらをちらちら振り返りながら歩くので、ひらひらと手を振ってやった。
俺は適当に試着室前で待たせてもらうことにする。
俺が渡したのは、白いブラウスと膝丈くらいのひらひらとしたスカートだった。暖かくなり始めている今の季節にはぴったりだろうと選んだ。加えてなまえの考えるかわいい、のイメージからも外れていないであろうと思う。
そのうちおずおずとカーテンが開いて、いつもと少し趣の違う服を来たなまえが顔を出す。

「あの、ありがとう、田噛。これ、買う」
「そうか」
「恥ずかしいついでに聴くけど、大丈夫だよね? この格好して外で歩いてもおかしくないよね?」
「おかしくねーよ、俺が選んだんだからな」
「んん、ありがとう」

ネックレスも見繕って、髪型も少しいじったら大分印象が変わりそうだ。じっと見上げる俺の視線に顔を真っ赤にして視線を逸らした。
かわいくなりたい、となまえは言ったが、そんな必要が一体どこにあるのだろう。
なまえはぱっとカーテンの奥に戻って、それから素早く元の服を着て試着室のカーテンを開けた。大きく息を吐いて疲れた様子である。
近付いてきた店員に服を渡して買い物は終わり、今度こそ「帰ろうか」のなまえの言葉に俺はしぶしぶ頷いた。

「いい買い物をしちゃったなあ」

帰り道、なまえは相当、俺が選んだ服を気に入った様子で、何度も紙袋の中身を覗いたり鼻歌を歌ったりと上機嫌だ。
何度見たって紙袋の中身は変わらないだろうが、ここまで嬉しそうだと罪悪感も和らいでいく。

「ありがとうね、田噛」
「何度も聞いた」
「うん、それでも、ありがとう。それにしてもびっくりだなあ。こんなにかわいいのを選んで貰えるなんて」

それも何度も聞いた。
俺が言うより早く、なまえはくるりと振り返る。

「田噛の好みが、もっと知りたいなあ」

ぐ、と吐き出しかけた言葉を飲み込む。
伸ばしそうになった手を抑える。
他意はない。この言葉はただ、本当に俺の選んだ服を気に入ったのだと、それだけの言葉だ。
俺の、例えばなまえに対して考えている事だとか、そういうことを知りたいと言っているわけでは、断じてない。ないのである。だから、照れたり喜んだりは全くの徒労だ。無駄なことである。
邪気のないその言葉はひどい殺し文句だと、気付かせてやりたい。

「気が向いたらな」

何故かわいくなりたいのか、その質問は結局できないままであった。


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20170425:はーしさま!
この度はリクエストありがとうございました! かわいくなりたい女の子と田噛の話でした!
かわいいは作れるかも知れませんが一朝一夕ではいかないものですね…ある日思い立っても服を買うのもなんだか難しいと思います。にしたって買い物をする話が多すぎる予感もしていまして…楽しんで頂けていましたら幸いです。
私のサイトのいろいろは、テスト勉強の息抜き、その他ストレスのかかるなんやかんやの合間におやつ程度に食して頂ければ幸いです! 私にもその案件覚えがありすぎてどうしたらいいかわかりません笑 申し訳ない!
さておき応援はさせて頂きます! 私ももっと面白い話素敵な話が書けるように頑張りますので頑張りましょう!! よろしくお願い致します!!
ありがとうございました!!

 

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