10000hitありがとうございます!/ジェノス


笑っている。
天真爛漫という言葉は、きっとこいつのような人間のことを言う。
その為だけに生まれた言葉なのかと思うほどに、ただただ笑っていた。

「わ」

自分の足につまづいても。
挙句転んでしまったとしても。
買い物もろくにできなくて、料理もまるでロシアンルーレットのようで、そんななまえだけれど、笑っているのだ。
いつも、いつも。
俺は今日も、つまづいたなまえを支えて、そのまま無言で背中についていたホコリを払って、無言のまま歩き出す。
買い物についてきたこいつは、少しぽかんとした後に、やっぱりにこりと笑っていた。
何が面白いのかは、俺にはわからない。

「ありがとう、ジェノスくん。助かりました!」
「助けていない。隣で転んで泣かれたら迷惑だからだ」
「さすがに相当ひどく転ばないと泣きはしないけど、ありがとう!」
「……」

笑うのはいい。
笑うのはいいことだが、なんでまたこんなにドジなのかと思わざるを得ない。
隣を歩いていればほぼ毎日のようにつまづいているし、いっそ病気なのではないかとすら思う。

「まあまあ、さすがヒーローってことで、そんなこわい顔しないでよ」
「俺はもともとこういう顔だ」
「はははは」
「何がおかしい」
「いいよいいよ、ジェノスくんはどんな顔しててもイケメンだよ」
「……」

冗談とも本気とも、バカにしているともとれない言葉を口にしてはからからと笑う。
普通これだけ冷たくされれば何かしら堪えるものがあるはずだが、なまえはどうしたって笑っていた。
買出しに無理やりついてきて、俺の隣で、へらへらと。
笑っているのだ。
俺はこいつが笑っている姿しか見たことがない。
そうこうしている間に、また自分の足につまづいて前のめりになったので、ほとんど反射で助けてしまう。
助けなければ、こいつは手にいくつも擦り傷をつくって、本当に見ていられない。

「……」

見ていられないのだ。
見ていられないから助けるだけ。
今度は声もあげない。
余裕なものだ、このまま離そうか、そんなことを思うけれど、なまえがじっとこちらを見上げていることに気付く。

「っ」

そうしてやはり、にこりと笑う。

「ありがとう」

律儀というより、やはり習慣のように礼を言うと、歩き出す。

「おい、また転んだらどうする」
「いやー、気を付けてはいるんだけどね」
「普通気を付けていたら転ばない」
「ごめんね、ご迷惑おかけしてます」
「そう思うなら出歩かなければいいだろう」
「それはちょっと、一人暮らしっていう生活上無理かなあ」
「なにか雇えばいいだろう」
「雇う、かあ、そんなにお金の余裕がなあ」
「ふん、貧乏人のくせに不器用か」
「世の中うまくいかないねえ。でもやっぱり、大丈夫だよ、ジェノスくんは優しいね」
「そういう問題じゃない」

ふらふら、ふらふら。
頼りなく揺れる両手が、どうにも不安を煽る。

「違う」

ぱし、とそいつの右手を捕まえた後に言う。
なまえは流石に少し驚いていた。

「えーっと、そう、なの?」
「そうだ、違う」

もっと言いようがあったことには、この後で気付く。
もう手を引いてやるしかこいつがふらふらどこかで転けない方法を思い付かなかっただけだ。
別に。
特別不安とか。
特別心配しているとか。
いま、つながる手に特別何かを感じているとかはない。
断じて、ない。

「それでも、ありがとう」

なまえは少し驚いただけで、やはり、へらりと笑っていた。
少しだけむっとして、その言葉には答えなかった。
それでも、手の力は緩めずに、仕方が無いから、こいつが、転ばないように。


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20160411:以下コメント返信
もふ猫さま→
はじめまして、あさりと申します。
今回は企画に参加頂きありがとうございました!
相手はジェノスくんで、ドジで危なっかしい夢主とのことでしたが如何でしたでしょうか。
なら連れ歩かなければいいという話にはならないところに無自覚片想い感が出ていればいいなあと思う次第です。
敬語と普段の話し方と一度で二度おいしいジェノスくんですが、今回は敬語でない方となりました。
楽しんでいただければ幸いです。
この度は、本当にありがとうございました。
もしよろしければ、またよろしくお願い致します。
まだまだがんばります!

 

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