20220703リクエスト(MAX様子のおかしい火縄)


 
 夜に調理場を借りて、お菓子作りをしていた。正確に言うと明日のバレンタインの準備だ。時間がある時にと思ってたら前日になってしまったので、この時間に無理矢理用意をしていた。
「なんで私、銃つきつけられてるの」
 火縄は表情の読めない顔できょとんとした後に「ああ」と言った。
「悪かった」
「怖いから銃下ろしてくれる?」
 今度もこの男は「ああ」と言ったくせに私の額に銃がつきつけられたままである。火縄にはここを使うことを言っていなかったから、何者かが侵入したのでは、と一瞬疑うのはまあわからなくもない。が、私だとわかった上で銃が離れていかないのは理解できない。
 余熱を終えたオーブンが鳴る。クッキーの成形作業は途中で止まっていて、この調子ではしばらく進みそうにない。
「火縄」
「なんだ」
「もう動くけどいいね?」
「ああ」
 上げている手を下ろそうとすると、顔の横を銃弾が飛んでいく。この野郎。
「火縄中隊長殿? 言いたいことがあるなら聞きますが」
「明日お前は非番だろう」
「だよ。だからこんな時間まで起きてる」
「今作ってるのは」
「バレンタインのお菓子ですが」
「何故」
「明日バレンタインだからですけど?」
「お前は非番だろう」
「なんでループした?」
 ちょっと怖くなってきた。「次撃ったらマジで怒る」と宣言してからクッキーの型抜きをする。ヴァルカンに頼んだらよく知らない動物の型も作ってくれて、明日これの説明を求められたらどうしたらいいのだろうか。余った生地をもう一度伸ばして、更に余った分は試食用に適当に丸めて並べた。
 焼き時間は二〇分だ。
 オーブンに生地を入れて時間をセットして、使った道具を洗って片付けて、そうこうしている間に残り一五分。時間を潰す為に持ってきていた本を開いて読み始める。が。
「なんでまだいるの」
「オーブンを爆発させたら大変だろう」
「させませんけど」
 火縄が壁にもたれ掛かってじっとこちらに視線を向けている。なにを疑われているのかしらないがもう構うのが面倒になってきた。火縄から話しかけられることもない。そのまま無言で時間が来るまで待って、焼き上がるとオーブンから取り出した。
「よし」
 まあこんなもんだろう。少し冷ましたら容器に移して部屋に持って行って、ラッピングは明日やる。やれなかったらこのまま持っていく。味見用のクッキーを火傷に気を付けながら食べてみる。うん。
「……」
 火縄はまだそこにいて、ジッとこちらを睨み付けている。なんだ。あ、もしかしてあれか。調理場が空くのを待っているのだろうか。だとしたら申し訳ない、が。いや、そうであればそう言いそうなもので。私は味見用に作った一枚を指差して言った。
「食べる? 一枚」
 ぴくりと反応があったので、目を開けたまま寝ている、とかではないはずだ。……たぶん、たっぷり一分は待った。火縄は答える。
「いいや。誰かの為に作ったものだろう」
「ああそう……」
 本格的になにがしたいのかわからないなあ。私はまた本を開いてクッキーが冷めるのを待つ。ある程度冷めたら割れないように気を付けてタッパーに入れて、調理台を拭き上げた。調理場を出ると火縄もついて来たので電気を消す。調理場を使うんじゃないんかい。心の中だけでツッコミを入れて、振り返る。
「じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 火縄は自室に戻って行った。私も自分の部屋に戻る。
 明日、遅刻しないように早めに寝て、クッキーは、もし余ったら第八のみんなにも配ることにしよう。さっきのことは、よくわからないからできるだけ早めに忘れたい。いや、もしかしたら、明日の女子会で話したら、怪談話として盛り上がったりするのだろうか。

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20230223:『MAX様子のおかしい火縄』リクエストありがとうございました!同じようなやつ書いてたらすみません!

 

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