20220703リクエスト(金狼)


三千七百年前の人間なのに現代人とはこれ如何に。とは思うが。このストーンワールドではそう呼ばれている。
私は石化を解いてもらってからずっと、海を見るだけでテンションが上がるし、自然の中で暮らしている、というのがどうにも面白い。ひょっとしたら、こういう生活が肌に合っているのかもしれない。暇があれば村の外を散策したりしていて、皆に探されることも度々ある。最近は金狼くんがよく私を探しに来る。
「ここに居たか」
今日も私探しを頼まれたのだろう。何の用事かと聞けば、彼はきょとんと眼を丸くしていた。
「用はない。ただ、姿が見えなかったので探していただけだ」
「あ、そうなの……?」
「何か手伝うことはあるか」
「ううん、ただの散歩だから」
「そうか」
金狼くんはこくんと頷いて村へ帰って行ったが、用はないけど探していた、はそんなに簡単に言ってもいい言葉だろうか。私なんかは単純なので、好かれているんだなと思ってしまうけれど。歩き去っていく金狼くんの背を見送りながらしばし考える。
「いや、調子に乗るのはよくない」
もし『そう』であれば、帰りも一緒がいいはずだ。それがなかったのだから、ただ単純に、心配されたのだろう。この日はそう思うことに成功した。

別の日、金狼くんは水車を眺めていた私のところに来た。あれから三日と経っていない。「ここだったか」彼は私をよく探しているせいか、私を見つけるのが大分うまい。今日こそは誰かに頼まれたのであろうとすかさず聞いてみる。
「千空とかが呼んでた?」
「そういうわけではないが」
だからそれは。金狼が自発的に私を探しに来たということで。夜になる前には村に戻るのに。昼間から探しにくるのはまずいと思う。心配するにしても過剰だ。
「姿が、見えなかったからな」
「そう……」
会いたいから会いに来たと言っているようにしか聞こえない。
「村に戻るなら、護衛を務めよう」
一緒にいたいと言われているようにしか聞こえない!
「あ、うーん……」
断る理由もなかったのでお願いしたが、その後銀狼くんに「なんかいいことあった?」と聞かれていた。「何故だか気分がいいんだ」じゃないんだわ。

そういうことが何度か続いたので、私は南ちゃんに泣きついた。彼はたぶん、一生無自覚でいると思われる。周りには気付いている人もいるようだが、あたたかく見守られている。いっそ指摘してくれと思う。私は何故、一人で冷や冷やしなければならないのだろう。
「南ちゃん。私はどうしたらいいの」
「うーん、そうだねー。他の男の子と仲良くしてるの見せるってのもいいけど、彼の場合は自覚と同時に身を引いちゃうかもだし……」
「私はこういう、はっきりしない状態が苦手で」
「ならいっそ告白しちゃえば?」
「軽い……」
「ああ、確かに。石神村のみんなは告白イコール結婚みたいな」
「そこまでの覚悟は決まらない……」
「真面目だねえ」
南ちゃんは言う。「でもやれることなんてそんなにないよ?」告白するか、自覚させる為に動くか、金狼くんの好きなようにさせておくか。「なまえはどうしたいわけ?」どうしたいか。どうなりたいか。そんなものがはっきりしていれば話はもっとカンタンだ。私は地面に転がって「んー……」と唸った。我ながら苦し気な声が出た。
「なまえ!?」
と、思った瞬間、金狼くんがどこからともなく表れる。声を聞いて「体調でも悪いのか」と言ってくる。そういうわけではない。私は足を延ばして仰向けになって眼を閉じる。
「どうしたんだ?」
「平気だよ。ちょっと悩みがあるみたい」
南ちゃん。
「私もう行かなきゃいけないから聞いてあげてくれる?」
南ちゃん!
「俺が?」
「そう。適任だと思うし」
金狼くんは私の横に座ると「俺でよければ話を聞くぞ。体は平気なのか」不安そうに聞かれた。私は体を起こし、砂を払う。呆れるほどにわかりやすい好意だ。無自覚とはかくもおそろしい。私はもう笑うしかない。
「金狼くんは本当に私が好きだねえ」
「そっ」
そんなことはない、だろうか。金狼くんは耳まで真っ赤になっている。何を言われるだろうかとドキドキしながら待ってみた。眼鏡の位置を直して視線を彷徨わせる。右左右、そして正面の私だ。ごく、と唾を飲み込むのが見えた。
「……迷惑だろうか」
それはずるいよ。


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20221112:リクエストありがとうございます!金狼でしたー!

 

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