20220703リクエスト(夢主→→→(←←←←←←←←←)キャラ)


なまえは二十五歳になったらしい。最近十四が誕生日会を企画して、俺も強制的に参加させられた。なまえは誕生日会に俺が来た、と言うだけでこれ以上の幸せはないみたいな顔で笑っていた。そんななまえは、今日もこの事務所で働けることが嬉しくて仕方がないという顔でコーヒーを持ってくる。
道具や豆にこだわって作られるコーヒーは従業員全員の癒しだ。客にも評判が良い。俺の為にとはじめたことのくせに、俺以外の奴にも律儀に振舞ってやっていた。
コーヒーを置いたあとにチラチラこっちを見ているので声をかける。顔を見れば言いたいことは分かっているが「どうした」と聞いてやった。
「え?」
「なんか言いたいことがあんなら言え」
「ああ」なまえはなにか考え込んだ後に控えめにニコリと笑った。これはこいつが、望む答えは貰えないとわかっている時にする顔だ。必死に、期待する気持ちを抑えた時の顔。
「コーヒー、どうですか?」
俺がなまえを喜ばせるのは簡単だ。「美味い」と言ってやれば満面の笑顔を向けるだろう。
「まあまあだな」
「そうですか。獄さんが通ってる店のマスターにこっそりコツを聞いたりしたんですが」
「店の味が一朝一夕で再現出来るわけねえだろ」
十個年下のこいつはいつだか俺のことが好きだと言った。簡単に言ってくれる。そう思ってムカついて「俺はそんな風には見られねえよ」と突き放した。そんな風に軽く飛び越えられるような年の差でもない。その時の、こいつのショックを受けたような、反面安心したような顔は忘れもしない。俺がここから動けない理由の一つになっている。フラれて安堵するということは、両想いになる事はこの女の望みでは無いのかもしれない。だから、これは、こいつも望んでいることだ、と言い聞かせる。
なまえは自分が容れたコーヒーに視線を落として微かに笑う。
「そうですねえ、精進します」
うっかり「必要なものがあるなら言え」と言いかけて慌てて口を閉じた。
なまえは俺から離れていくと、人の事務所でころころと遊んでいる空却と十四に捕まっていた。喋っている内に遊び相手にされ、一緒になって遊んでいやがる。あいにく押し付けられるような仕事もなくて、出来る限り聞かないように、見ないようにしながら自分の仕事を片付けた。
俺には向けない顔をして遊んでいやがる。
「チッ」
なまえが席を立ち、部屋を出て行くと同時に空却と十四に言ってやる。
「うるせーぞてめーら」
二人はにやにやしながら俺を見上げる。他人事だと思って面白がりやがって。絶対に、わかっていて距離が近いし、わかっていてあいつを遊びに誘っている。俺をからかう道具になまえを使うな。
「あ、獄さんも混ざるっすか?」
「混ざらねーよ」
「あと」
なまえが出て行った方を見る。まだ戻って来ていないことを確認して、強めに言った。
「俺の許可無くあいつとじゃれつくな」
「なんで」
「腸が煮えくり返って仕事どころじゃなくなるからだよ」
「そりゃ、いい修行になるな」
ひゃはは、と空却は笑って新しいポテチを開けた。「素直になった方がいいっすよ。体にも悪いっす!」相変わらず好き勝手なことばかり言う。まったくこいつらは。そんなことはわかっている。もうとっくに手遅れであることも、全てわかって、先送りにしているのだ。
「あんまり悠長にしてっと、他の奴に取られちまうんじゃねーの」
十四はうんうん頷いて同意している。「だから」そんなことはわかっているが。そんなことはあり得ないという自惚れもある。ただ、女の恋愛は上書き保存なのだという。とすれば、俺にしている顔を、何もかも忘れて他のやつへ向ける日が来る可能性も、ゼロではない。吐き気がする。けれど、しかし。
「……あれは、俺のだろうが」
だから俺に飽きるなんてことは無いし、どっか他に目移りすることもない。空却は呆れた顔をしてため息をつく。「獄よお」甘んじて、こいつの言葉を聞いてやる。
「面倒くさすぎるだろ」
「わかってる」
「いつか飽きられて寄ってこなくなったらどーすんだ」
「悩む必要がなくなっていいな」
「悩んでんじゃねえか」
悩み過ぎて、何に悩んでいるんだかよくわからなくなることもある。
「答えなんて決まってるくせによお」
「うるせーぞクソ坊主見習い」
もし俺が全部諦めたら、俺はあいつの大好きな俺ではいられなくなる自信がある。あいつが見て来た天国獄は存在しなくなる。決壊したら今まで通りではいられない。きっとドロドロに甘やかして、今よりもっと周りとの関わりを制限したくなって。つまるところ、そういう自分を、受け入れられる自信だけがない。
「とにかく、距離が近いんだ、お前らは」
空却と十四は適当に返事をして、なまえが帰ってくるとまた騒ぎはじめた。いいか。お前らは今、なまえに優先されている気になっているだろうけどな。俺がコーヒーを飲み干したら、あいつは誰より早くそれに気付いて「獄さん」と甲斐甲斐しく戻ってくる。それを忘れるんじゃねえぞ。わかったな。


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20221109:『(夢主→→→(←←←←←←←←←)キャラ)』キャラ指定なかったので思いついたやつで書かせて頂きました! リクエストありがとうございました!

 

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