20220703リクエスト(リオ)


 まず一番最初に思ったのは、暑そうだなということだ。リオは、待ち合わせ場所の公園で、キャップを被ってマスクまでして立っていた。雲一つない晴天と、子どものはしゃぐ声、休日昼間の公園で、彼の存在は浮いていた。噴水を背にして視線は下。決して姿勢は悪くない。顔を隠す為のファッションなのだろうが、シルエットの綺麗さというか、目元の涼やかさだったりだとか、隠しきれない部分がより際立って、いっそ、堂々としていたほうが目立たないのでは、と思う。
「ごめん、待たせた」
「いいや」
声をかけると、マスクに指をひっかけて少しだけ顔を見せてくれた。じっと見つめていると「変か」と聞かれる。「いや、世界一カッコイイよ」「また君は」私の言葉はどうにも重みがないのか、リオには軽く躱されてしまう。「本当に」彼は往生際が悪いことにまだ困っている。並んで歩きながら、逆に、何故そんなに謙虚でいられるのか考えた。自覚的でないほうがおかしい。あまり考えていると思考は一周し私のところに戻って来る。考えることは決まって、今私は奇跡を見ているな、ということだ。だってこんなにも彼は。
「――なあ!」
リオがいるのとは反対の肩を掴まれた。驚いて振り返る。「やっぱり!」リオは何か言おうとしたが私が「ああ」と返事をしたので口を閉じた。声をかけて来た男はまだ私の肩を掴んでいる。「久しぶりじゃん」「あー」久しぶりだ。それはそう。知らない仲ではない。それもそうだ。ただ、今、このタイミングで声をかけられるのは意味がわからない。
「元気してた?」
どこまでも気安い様子で話しかけて来る。私は一歩リオの方へ寄るが関係なしだ。なんのつもりで。考えるのが面倒になって肩を掴んでいる手を叩き落とした。
「ごめん、今、忙しい」
恋人関係を解消しても絡んでくるなんてなんて奴だ。いや、百歩譲って絡んでくるのは構わないが、今声をかけられるのは意味がわからない。私はリオの手を掴んでさっさと歩く。流石に追いかけては来ない。リオはしばらく後ろを気にしていた。
角を曲がると乱された空気が徐々に戻って来たので「ごめん、元彼。気分悪くしたでしょ」とやや早口で言った。リオは「いいや」と言ってくれたものの、気にならない、という訳ではなさそうだ。リオが不愉快にならないように、できることをしたと思ったのだけれど。
「微妙な顔だね……」
「ああ、いや。君があの男のことをもうなんとも思っていないのはわかったし、明確に僕を優先してくれたのも嬉しかったんだが」
「だが」
「怖いような気もして」
「なんで?」
「僕がもし、『元彼』になったら、同じ思いを味わうのかと」
私は自分の奥歯がぎり、と鳴るのを聞いた。絶対変な顔をしていたから、見られていないことを祈る。あの野郎。話しかけられた時点で終わっていたのだと溜息を吐く。リオの、少し弱ったような笑顔が苦しい。大丈夫。なんとか伝えたい。私がリオにあんな態度を取ることはない。仮に恋人でなくなったとしても。そう。
「リオはたぶん、デート中とわかってたら声掛けてこないよ」
「そこは嘘でも『元彼』になんてならないと言うところじゃないのか」
「それはリオ次第でしょう」
彼は本当に、もっと自惚れたらいいんだ。私がどれだけリオを好きか、知らないはずはないだろうに。
「リオが嫌がる以外に、どうやってこの関係を解消するの。もうご存知と思うけど私は今まで出会って来た人間の中でリオのことを一番すごい人だと思ってる。超、ハイスペック。なにせさっきもリオのこと眺めるのに夢中ですれ違っても気付かなかった」
「……それは、羨ましいな」
「リオのことですけど」
もしかして本当に何も伝わっていないのだろうか。それともこれは、なにかを試されているのだろうか。
「そういう意味じゃないんだ。きっと君は、そうやってかつて、彼のことも大事にしたんだろうと思って」
どうだっただろうか。あまりよく覚えていない。好きではあったし、色々頑張ったような気はするが、詳細は別れた日に置いて来た。いくらか残っていたものも、今では探せない。たぶん私の中にはないと思われる。リオが寂しそうにするので、自惚れるべきは私かもしれないと自分の胸を叩く。
「今の私が一番強いから、大丈夫」
「……機嫌を取って貰っている内が花だな」
「まだ言うか」
これ以上の強い、なにか、今の私を表現する言葉。あるいは行動? 考え込んでいるとリオは私と繋いでいる手に力を込めて私を引き寄せた。
「好きだ」リオはそう言って私と目を合わせて柔らかく笑った。安心してくれたようで何よりだ。


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20220916:リクエストありがとうございました!『リオとデート中に元彼と遭遇する』書かせて頂きました!


 

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