20220703(岸辺→→→→→→←←夢主)


 ちょっと目を離すとむくれている、ということがよくある。服を買いに行く、という私に無理矢理ついて来た露伴先生は私と目が合うと「フン」と鼻を鳴らして顔を逸らした。会計をしている間に一体なにが。気付いていないフリをするとそれはそれで怒られるので小走りで傍へ戻る。
「なにかありましたか?」
 なにかありましたか。露伴先生はそう私の言葉を繰り返してから言った。
「別に。君は恋人が隣にいるって言うのになんの相談もしないんだなと思っただけさ」
「ああ」
 相談されたかったのか。いや、もしかしたら着て欲しい服でもあったのかもしれない。それを切り出すタイミングがなくて拗ねている、という線が濃厚か。私はぐるりと店内を見まわして言った。
「どれがいいですかね」
「買ってから言うことではないし、指摘されてから仕方なく言われてもね。君はぼくをなんだと思っているんだ」
そう言われると、もうやれることはないということになる。そもそも今日の買い物は買うものが決まっていた。相談を挟む余地はなく、この事態を回避する方法はなかったように思う。なんとかならないものか。露伴先生を見上げてニコリと笑う。
「大事な恋人ですよ」
「今日という今日はそんな言葉では騙されない」
 いつも騙しているわけではないが。
「君は、ぼくが恋人の買い物にも付き合えない器の小さい男だと思っているってことが、よーくわかったよ。相談したら迷惑がると思われているし、時間がかかったら不機嫌になると思っているんだろう」
 実際そういうこともあったが。
 露伴先生はじっと黙って私の言葉を待っている。たぶん今日は何を言っても駄目だ。元々あまり機嫌がよくなかったのだろう。なにがあったのかはわかりようがないし、本当にストレスになるようなことだったのかもわからないが、ストレスのかかるような出来事が続いていて、今、爆発しているという感じだ。
「あー、何か買います? お菓子とか」
「子供じゃあないんだから、そんなもので機嫌が取れると思うなよッ!」
「わかりました。持ち帰って検討させて頂きますので今日は帰りましょう」
「ああそうしよう。まったく無駄な時間だったな」
 そこまで言われると傷付かないわけではないが、私まで怒り始めると不必要に長引くので黙っておく。不用意につつかなければこれ以上被害が拡大することもないだろう。露伴先生の少し後ろを歩く。注意深く観察していると何度かこちらを振り返りたそうにしては踏みとどまる、ということをしている。今更難儀な人だとも思わない。
 結局駅につくまで無言であった。私が「では、今日はすみません」と言うと、露伴先生は腕を組みながら言った。
「本当に帰るのか」
 一度「帰れと言われたので」と本当に帰ったら三日後くらいに広瀬くんから「なんとかしてください」とSOSの電話がかかってきたのを思い出す。なんとかしに行ったら「なにしにきた」と言われ言葉を失い、無言で玄関で睨み合っていた。どれくらいそうしていたのかは忘れたが、膠着状態に疲れて果てて「お腹すきませんか」と言った私に、先生は「そうだな。何か食べに行こう。奢るよ」と返事をした。私に背を向けた肩が小さく上下していたので、安堵したのだろうと思う。今の状況に置き換えると先生が言った「本当に帰るのか」は私が言った「お腹すきませんか」に当たる。
「……どこか行きますか?」
「君がどうしてもと言うなら」
「じゃあ先生を家まで送ってから帰ります」
「しょうがないからお茶くらいは出してやるさ」
露伴先生の家までは無言だったが、家に一歩入るなり体をぎゅうぎゅう抱きしめられた。しばらく無言だったがその内小さく「怒ってないよな」と確認された。怒っていたのは先生だけだ。


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20220907:リクエストありがとうございました! 岸辺→→→→→→←←夢主書かせて頂きました!

 

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