超感謝1周年!/獄都のみんな


なまえはとにかく、いつ見ても何かを口に入れている。
ハロウィーンやバレンタインなどのイベントが近付くと空き時間に獄都やあの世この世を練り歩き、美味しい期間限定ものを探している。
甘いお菓子から珍味まで、時々持ち帰って振舞ってくれたりもする彼女は、女性にしては少し大柄で恰幅が良いが、いつでも楽しそうなのである。

「あ、菓子!!!」
「……平腹? それもしかして私のこと? 人を指さして菓子とは何事か……私は菓子ではない……」
「菓子! 菓子ある!?」
「だから菓子では……」
「俺は饅頭」
「オレもー!」
「田噛まで……私は歩く糖分供給機ではないのだよ……でも饅頭あるからあげる……」
「おー! 菓子だ!!! サンキュー!!!!」
「持ってるのかよ……」

平腹に不名誉な名前で呼ばれても、少し窘める程度で、二人の望み通りに饅頭をあげていた。
なまえは去っていく二人に手を振って、「お土産買ってきてねー」と声をかけた。彼らの間には菓子を分け与えるかわりに任務に行った時には土産を買ってくると言うような約束でもあるのだろうか。
平腹と田噛も手を振り返して事務所から出ていった。
入れ替わりに、谷裂と、谷裂に引きずられている木舌がなまえの前に現れる。
廊下でわざわざ立ち止まって、登場した二人ににこやかに挨拶をした。

「おはよ、谷裂、木舌」
「おはよう」
「あ、おはようなまえ! 今からワイン飲もうと思うんだけどチーズ系のお菓子ある?」
「獄卒はみんな追い剥ぎか?? ほら、あげるから大事に食べて」
「ありがとう! なまえも一杯どう?」
「おい貴様、朝から酒を飲む気か」
「だって折角の休みだからね」
「私も朝から酒はちょっと……木舌上級者過ぎない……??」
「そんなことよりも、なまえ。これから鍛錬するがお前もどうだ」
「いやー、私もう今日のノルマ分はしたし」
「……いいのか?」
「……はっ!? もしかして体型のことか!!? 最大限気をつかってくれてるの超分かるんだけど、別に大丈夫だよ。それに谷裂くん、この体型の方が突進した時迫力があって良いと思わないかね……?」
「……」
「コメントに困るのはやめてくれない……」

谷裂に引きずられながら、木舌は朗らかに礼だけ言って、また廊下にはなまえが一人残された。
俺は歩き出したなまえについて一定の距離を保って観察を続ける。肋角さんの執務室あたりまで来ると、大量の資料、もとい、資料を持ちすぎて顔が見えなくなっている小柄な獄卒と鉢合わせた。
俺はさっと廊下の影に隠れる。

「……抹本? 手伝おうか?」
「あ、もしかして、#n……? ありがとう、助かるよ」
「ううん……、いいけど……、じゃあ上から半分持つよ?」
「今度、脂肪の燃焼を効率よくする薬を開発するから試してみてね」
「ア、ハイ……抹本って時々誰よりもストレートよね……」
「? いらない?」
「とんでもない。楽しみにしてる」

なまえが体型のとおりに力があることは割合に知られていることで、平腹ほどではないにしても、一般的な女性よりは力持ちだ。
抹本となまえは適当に二、三言葉を交わすと、資料室へ入っていった。しばらく待っているとなまえは毒々しい色をした飴玉を一つ持って廊下に出てきた。
あの飴はきっと抹本が作ったものだろう。
なまえはやや悩んだ後、飴玉をポケットに押し込んだ。
鼻歌交じりにその場を離れて、今度は給湯室に入っていった。
しばらくするとコーヒー二つと、小さな皿に何粒かのチョコレートを乗せたお盆を持ってなまえは肋角さんの執務室へと向かっていた。

「差し入れかな? なまえは気が利くね」

俺の言葉通り、それらは災藤さんと肋角さんへの差し入れで間違いなかったらしく、執務室へ入ると程なく空のお盆だけ持ってなまえが出てきた。
俺はちらりと、今日ずっとなまえの観察をしている友人へと視線を落とす。

「斬島、どう? なにかわかった?」
「特別なにかわかったというわけではないが……」

俺は俺の趣味でなまえを観察していたわけじゃない。
斬島にある相談を受けて、それの解決策としてなまえのことを改めてよく観察してはどうかと提案したのである。
提案すると斬島はそれはいい考えかもしれないと同意してくれたけれど、「一人よりは佐疫も居てくれた方が心強い」と協力を要請された。
もちろん、お安い御用だが、俺は斬島になんと声をかけたものか迷っていた。
なまえ自体におかしなところはない。
いつもなまえはあんな感じである。
斬島はそんななまえの後ろ姿をじいっと見つめて考え込んでいる。

「……」
「斬島? どうしたの?」
「佐疫、あれを」
「ん?」

あれ、と斬島が指さしたのはなまえの姿で、チョコの礼にと災藤さんあたりがくれたのだろう。
高そうな包装のクッキーを一つ口に放り込んでいた。その時のなまえはひどく嬉しそうに頬を押さえて、力なくへにゃりと笑っていた。
ああ、クッキー一つで幸せそうだ。
俺も思わずこっそり笑う。
斬島は、ただいつもの真面目な無表情のまま、やっぱりなまえを見据えていた。

「佐疫」
「ん?」
「やはり、なまえを見ていると、このあたりがひどくざわつく」

病気だろうか。
妙に深刻そうな告白。斬島は、自分の胸のあたりにそっと触れて俯いた。

「ざわつく、だけ?」
「いや……、そんなことはない……。なまえがああしていると俺も嬉しくなる」
「うん、それから?」
「それから、これが一番わからないんだが……」

斬島の青色の目が儚く揺れた。

「他の獄卒と話していると、とても、気になる……」

わかっていたが、これはもう確定でしかない。
答えを教えてあげることは簡単だけれど、きっともうすぐ気付くだろう。
俺はただ目のあたりが熱くなるのを耐えながら、斬島の肩をぽんと叩いた。

「斬島なら安心だよ……。なまえを幸せにしてあげてね……!!」

きょとんと首を傾げる斬島の恋を、俺はこれからもそっと見守るのだろう。
早速明日あたり、二人きりになれるように動いてみようか。
はじめからうまくは行かないだろうけれど、この二人ならば心配はいらない。ああ、どうか二人に良いことが起こりますように。


------------
20170124:みさみささま!
リクエストありがとうございました、管理人のあさりです。
ふくよかな女の子の話でした! 希望に添えた話が書けていたら良いなと思います…。
感想も頂きましてありがとうございます、獄都、獄卒らしいシリアスめの話も書きたいかなと思うのですが獄都新聞やアンソロジーなんかを見ているとついほのぼのしてしまいますね…!
まだまだ寒いのであったかい話多めでがんばります! ありがとうございます!
それでは、企画にご参加いただきましてありがとうございました!! もしよろしければまたお願い致します!!!

 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -