祝20万記念(38)


「駄目だ」と彼は言ったが怪我もしているし相当汚れていた。言われるままに放置したら私がしばらく気にすることになるだろうな、と彼を抱え上げて部屋に連れて帰った。泥とか血がスーツにつくのを見て、彼は「汚れるから」と言ったので、私は声をあげて笑ってしまった。それに驚いて、隻眼の彼はびくりと震える。

「君は良い子だね」



風呂に入れている間に洗濯機を回して、下着や服なんかは時々幼馴染兼上司の男が泊まりに来るときに使っているものをあげてしまってもいいだろう。少しサイズが大きいかもしれないが、小さいよりは快適なはずだ。
それが終わると適当な野菜をいためて、昨日大量に作った豚丼のもとを解凍した。甘辛い味付けで、卵を乗せると大変に美味しくなる自信作である。好き嫌い、はあるかもしれないが、まあ、複雑そうだしこちらから色々気にする必要もないだろう。
これだけしたら、私は後悔なく明日も生きられる。
服を着てリビングに入ってきた彼はどうしていいかわからない、という風に俯いていた。迷っているなら迷っている間にご飯でも食べて貰ったらいい。「おいで」と私がテーブルに呼ぶと、彼は素直にやってきた。本当にいい子だな。真っ当に生きていたら至極当然のよいこに育つ未来しか見えないが。

「ほら、どうぞ」
「え、な、なんで」
「自己満足。あのまま見捨てたら目覚めが悪い。だから別に君は私に付き合わなくてもいい。まあ、食べてほしいけどね。結構美味しいと思うよ」
「……すまない」

なんだか、深刻そうな謝罪だった。これは確かに、彼は運が良いと言えるのだろうが、そうではなくて、彼の置かれている状況に関係があるような気がした。私はひょいと立ち上がり窓の方へ歩いて行く。例えば、あの路地の陰でこちらの様子をこそこそ窺っているあいつらだ。

「君、名前は?」
「52……」
「ふーん。52くんか」

私が部屋を出て行こうとすると彼がこちらを気にしているので「すぐ戻ってくるよ」とだけ言い残して外に出た。
52くんは運がよかった。そして。

「君たちは運が悪いね」

誰だか知らないけれど、私はかわいいほうにしかつかない。
早々に片付けて、部屋に戻った。次の日人数を増やして襲いに来たが、同じことだ。その撃退は52に見られてしまったが、見せたことにより彼は安心したようで、私という存在と、私の家を使ってくれることに決めたらしかった。



「なまえ、おかえり」
「その両手は?」
「おかえりのハグ」

ここまで甘えてくることは、想定外だったが、まあ、かわいいは全てを解決するので、問題にはならない。


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20201108
しのさまから『拾った52に懐かれるシリーズ、52が夢主に出会い拾われた日のお話』でした!ありがとうございました!

 

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