祝20万記念(36)


「今日はゆっくりでしたね」

なまえは得意気にそう言った。彼女はもう身支度も済ませて布団から出てなにやら作業をしているようだった。朝餉の用意だとか、そういうものも済んでいるのだろう。本当に、ぐっすり眠ってしまったらしい。起き抜けに恥ずかしい思いをしながら、頭をかく。それでも、彼女を見るとあたたかい気持ちになるので、すぐにどうでもよくなった。
花が開くような笑顔でなまえは言った。「おはようございます」先に日に当たってきたのだろうか、ふっくらと朱が浮き上がる頬は、光を溜めている。

「ああ、おはよう」

俺は片手を上げてちょいちょいと動かす。なまえは膝をついて立ち上がり、布団のすぐ傍まで来てくれた。手が届くところまでまんまとやってきたなまえの頬に手のひらを滑らせると委細承知とばかりに顔をこちらに近づけて、上下の睫毛をそっと合わせて、触れた唇の感触と、行き来する感情に集中する。もう一度組み敷いて貪り食いたい衝動は抑えて、一度顔を離すとすり、と頬を合わせた。笑っているのは髭がくすぐったいからだろう。

「どうしたんですか?」
「いや、肌が光ってるように見えてよ。どうなってんのかと」
「あははっ」

とんでもなく面白い話を聞いてしまった、という風に声を上げて笑った彼女は、俺のあちこちに乱れた髪を手櫛で整えて、ゆっくりと後ろに流していく。頭に触れる細い指はなんとも心地よい。

「紺炉さんの髪も光ってますよ。きれい」
「そんなわきゃねェだろ?」
「どうなってるんですか? ずっと触ってていいですか?」
「……俺のことは口説かなくていいんだよ」

「ったく、しょうがねェなあ」しょうがねェな、お前は。俺をこんなに甘やかしちまって。

「あれ?」

すくうように持ち上げて、布団に寝かせる。しょうがねェ。口では、普段の態度ではどうあったってなまえに勝つことはできないのだから、俺はこれで、俺がいかになまえに惚れさせられているか、証明するよりほかはない。

「いいか?」
「なんて人だ……断れないのわかってて……」

お互い様だろ。そんなもん。


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20201108
むいさんから『紺炉さんで寝起きの話』でした!ありがとうございました!

 

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