祝20万記念(35)


大黒部長は何をするにも凄く丁寧だ。そんな風にする必要はないと思うのだけれど、気分は良い。いや、正確には、よかった、だろうか。最初こそ、お姫様のような扱いに感動していたけれど、時間が経つとなんだか距離を感じるようになった。

「君は座っているといい」

なんて、キッチンに立ち、軽食を作ってくれている姿はできる男性そのものだけれど。私はそうっと後ろから近付いて、きゅ、とその背中に抱き付いた。「っ」と体を跳ねさせる部長だが、振り払うことはなく、大きく深呼吸をしたのちに「どうした?」と静かに聞いてくれた。

「もう少しかかるぞ。適当な本でも読んで待っていてくれ」
「……」

言語化するのが難しいから抱き付いているので、簡単には返事ができない。かわりに、きゅ、と抱きしめている腕に力を込めて、部長の体の前側をするすると撫でる。ごくり、と唾を飲み込む音がした。「ま」

「待ってくれ。なまえ」
「駄目でしたか」
「駄目じゃないんだが」
「駄目じゃない?」

するすると胸のあたりを撫でていると、大黒部長は私の腕をゆっくりほどいて、真正面から私の体を抱きしめた。「駄目じゃないんだが、駄目だ」それは駄目ということである。私はなんとなくしょんぼりしながら「そうですか」と体の力を抜く。ぷらん、と私の横で行き場をなくなった手先が冷たくなるのを感じる。

「今日はどうしたんだ?」
「いえ、部長にもっとちゃんと触ってほしいなと……、ちゃんとっていうか、もっとこう……強く? みたいな……。わかります……? 言葉にするのが難しくて」
「そんな風に熱烈なことを言われてしまうと折角いろいろ考えていることがあるのに、全部吹き飛んでしまうんだが」
「全部吹き飛ばしてみませんか。たぶん、私それが欲しいんだと思います」
「……四方八方を必死に固めていたらいきなり頭上から降って来られた気分だ」

大黒部長は私がしたよりも強く腕に力を込めた。息苦しいのが心地よい。ゆるく柔らかくもいいけれど、このくらい強引にされたほうが、今は嬉しい。

「嫌だったら、教えてくれ。君のことを大切に、できれば気持ちよくしてやりたい」

「今までは、如何せん……」ごにょごにょと言葉を濁していたがこちらを気にしてくれていることはわかった。私はそれで十分だ。あとの、理性を飛ばしてもらう作業は、私ががんばってみるとしよう。


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20201108
ぽてちさまから『夜のほうはあんまり自信がない部長』でした!ありがとうございました!

 

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